チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

お盆に舞い降りた流星

連日の猛暑が続いていたお盆のある日、炎天下を自転車で走っているとほんの一瞬、ある懐かしい香りが鼻孔をくすぐった。

それはお線香と味噌汁の混ざった匂い。

その瞬間に、時間は一気に30年以上引き戻され、子供の頃のお盆の光景が鮮明に甦った。

その頃、毎年夏休みのこの時期は母方の田舎へ帰省していた。お盆と言えば思い出されるのは、炎天下蝉時雨の中の墓参り。そしてお寺で出してもらった冷たい麦茶。

何より楽しみだったのは薄暗くなって来てからの迎え火、送り火。それぞれの家々の玄関先で燃える小さな火の列が道沿いにどこまでも続く。今思えばとても幻想的な光景だった。子供が公然とやらせてもらえる火遊びだったので、楽しくていつまでも火をいじって遊んでいた。

夢中になって気がつく頃には辺りはすっかり暗くなっていて、家に戻ると迎えてくれるのが、この味噌汁と仏壇の線香が混ざった匂いなのだった。

俺にとってお盆というとまず思い浮かぶのがこの匂いだ。嗅覚と言うのは人間の眠っていた記憶を呼び覚ます効果があるようだ。

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そんなお盆に地上に舞い降りてきたのがペルセウス座流星群。今年はお盆休みの週末と重なって、おまけに新月で観測コンディションが良好だったので、帰省先の田舎の奇麗な空の下で家族で流星を楽しんだ人たちも多かったことだろう。

流星群と聞いてはじっとしていられない俺ではあるが、今回最もピークとされた13日の未明には不覚にも仕事をしていて明け方近くまで気付かず、あわてて屋上に上ってみたのは夜明け間近。しかし空が明るくなるまでの30分間に3つの流星を見る事が出来たのでまずまず上出来。人工衛星も見る事が出来た。それにしても驚いたのが空がきれいだった事。お盆休みで車が少ないせいだったのかな。

次の日もまだ見れるということで、この日は鎌倉に行っていたのだが、ラジオの収録が終わってから由比ケ浜の海岸に出たら、まだ早い時間にもかかわらず二つの流星を確認。これは昨日よりすごいかも!!!と勇んで家に帰って、食料と飲み物を揃えて、座椅子持参で準備万端で屋上に寝っ転がった。しかしちょうどその時を境に雲が出てきて、見る間に空が雲に覆われてしまった・・・。

しかし俺は三日目も諦めなかった。この日も前日同様全て準備を整えてまた屋上に横になる。昨日とは打って変わって雲一つない空ではあったが、さすがに流星はもうほとんど流れない。しかし空を見始めてしばらく経った頃、特大の一発が現れた!かなり長い時間空に糸を引いて流れて行ったその一発は、後で調べたら今回の流星群の中でも屈指の大物だったようだ。結局この夜見る事が出来たのはこの一つだけだったが、これが見れただけでも大いに満足だった。

こうして準備を整えて流星を見る事で思い出されるのは、やっぱり6年前の岸田劉生・・・いや、しし座流星群だ。俺が流星群と聞くとじっとしていられなくなってしまうようになったきっかけである。

その時の事は2001年11月19日の日記に詳しい。

あの夜は気合いを入れて防寒具に身を包み、全天360°見渡せる河川敷にただ呆然としながら一晩中寝転がっていた。あの夜の事は百万の言葉を尽くしても表現しきれない、満天に降り注ぐ流星の乱舞。どこを見渡しても飛び交う流星。螺旋の流星痕を残して音を立てて炸裂する大火球。全てをこの目に焼き付けようと必死で目を凝らす自分の常識を遥かに超越する夜空の神秘。今思い返しても本当にこんな出来事があったのだろうか? そんな気すらして来る、まさに夢のような一夜だった。こんな体験はもう一生ないだろう。一生分、いや、その何十倍も何百倍もの流れ星をこの一晩で見る事が出来た。

我に返ったのは鉄橋を渡る始発電車の音だった。鉄橋上に連なる車内灯の列が流星となり、暁の空気を切り裂く線路の音が一陣の風となり、一晩中続いた世紀の大スペクタクルショーの終わりを告げる終幕ベルのように夜明けの街に鳴り響いた。

気がつけば空の一角はもううっすらと青くなりかけていた。

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