チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

12月に読んだ本

対日工作の回想加藤 昭、イワン コワレンコ 他
回顧九十年福田 赳夫
自衛隊航空機全集―陸海空自衛隊、歴代装備機のすべて松崎 豊一

対日工作の回想対日工作の回想
(1996/11)
加藤 昭、イワン コワレンコ 他

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イワン コワレンコは、第二次大戦末期から対日工作活動に従事し、戦後の日本人のシベリア抑留に大きく関わり、その後も長きに渡って対日工作活動の中心にいた大物である。そんな人物が、ソ連崩壊後に自らの行動を正当化する目的で書かれた本なので、ハナから全て鵜呑みにする類いの本ではない。例えば事実と全く正反対の事を言ってミスリードを誘うなんて手法は、工作活動の中ではごく当たり前に行われることなので、その辺りも当然踏まえて読まなければいけない。特にシベリア抑留問題に関してなどは、日本人としては甚だ聞き捨てならない言辞が並ぶが、それも彼の立場を考えたらやむを得ない部分もある。

しかしそれを踏まえた上でも、筋金入りのソ連工作員の立場から語られる話を聞く機会はあまりないので、そういう意味ではとても興味深く読む事が出来た。

特に面白かったのは、やはり日本の共産党社会党との関わり、60年安保闘争ベトナム反戦運動への深い関与を窺わせる記述、マスコミに対する工作活動等。

特に朝日新聞との関わりは非常に興味深い。

コワレンコの主導で、『日本の大新聞にイデオロギー上の働きかけをする方法はないか』との方針で白羽の矢が立ったのが朝日新聞。これは当然予想出来るものではあったが、いざこうして工作員の口から平然と語られると恐ろしい。

ソ連はもう無くなったが、当然他の国からもこうした活動は現在でも日夜精力的に行われているはずなので、背筋が寒くなった。朝日新聞の長年に渡る不可解な論調を見ればこうした活動がかなり根深く浸透していることは納得がいく。もちろん朝日新聞だけではないが。

もう一つは故中川一郎氏との関わり。その不可解な死の前後からソ連との関わりを噂されていたが、コワレンコはそれをあっさりと認めている。今でも大きな謎の残るこの事件に、冷戦末期のソ連とアメリカとの関係が多少なりとも関わっている事は間違いないようだ。まあどこまで本当の事を話しているのかはわからないけどね。★★★★

回顧九十年回顧九十年
(1995/03)
福田 赳夫

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親子二代に渡る総理大臣、現総理福田康夫氏の父、福田赳夫氏が卒寿を記念して自らの生涯を綴った本。それにしては文量はそんなに多くはなく、かなり駆け足で90年の生涯が語られている。

そもそも政治家の自伝というのは、自らの業績を誇る性質のものなので、よかった事はことさら声高に語られるが、悪かった事は触れられないのが当たり前。なのでもちろんその辺は頭に入れて読まなければいけない。

この本もその例に違わず、戦後の特に経済政策、福田氏が生涯主張し続けた『安定成長論』が正しかったことが主張される。確かに時系列で見ていくと、福田氏が大蔵大臣だった佐藤政権時代に、『いざなぎ景気』と呼ばれる長期に渡る好景気が持続し、辞めた途端に物価が上昇したという事実は説得力があり、評価に値する。もちろん石油ショックという不可抗力のダメージはとてつもなく大きかったのだが。

その割に、最も知りたかった佐藤政権末期から長きに渡る『角福戦争』の舞台裏や、大平政権時代の40日抗争、中曽根政権時代の二階堂擁立事件などに関しては、全てを知る立場であったはずなのに、まるで人ごとのようにあっさり触れられるのみ。その当時、子供心に「この人は要するに自分がまたしゃしゃり出たいだけなんじゃないの?」なんて思ったものだが、その真意は金権体質の打破というところにあったとのこと。田中角栄との対立軸はそこにあったようで、それは納得出来た。それ以外では、現代では対テロ対策として批判される事の多いダッカ事件の際の『超法規的措置』という政府の対応の舞台裏とその問題点も、もう少し語って欲しかった。

政治家時代の話以上に、若き日のロンドン赴任時代や、戦前の陸軍省担当主計官時代の話、特に南京国民政府顧問時代の汪兆銘にまつわる話などは非常に興味深く、とても面白かった。★★★★

自衛隊航空機全集―陸海空自衛隊、歴代装備機のすべて (ミリタリー選書)自衛隊航空機全集―陸海空自衛隊、歴代装備機のすべて (ミリタリー選書)
(2005/12)
松崎 豊一

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とりあえず現在の航空・陸上・海上自衛隊の有する航空機を把握するには手っ取り早い本。これまでの機種の変遷や今後の問題点などの記述もある。ただ、もっと写真が沢山見られると嬉しかった。★★★