チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

12月に読んだ本

紀元二千六百年 消費と観光のナショナリズムケネス・ルオフ
三陸海岸津波吉村 昭
RDG4 レッドデータガール 世界遺産の少女荻原 規子
新・消えた轍―ローカル私鉄廃線跡探訪 1

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寺田 裕一


紀元二千六百年 消費と観光のナショナリズム (朝日選書)紀元二千六百年 消費と観光のナショナリズム (朝日選書)
(2010/12/10)
ケネス・ルオフ

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1940年といえば昭和15年、大東亜戦争が始まる前の年の事。

戦後教育を受けた自分たち世代は、この時代は昭和6年の満州事変から始まるいわゆる15年戦争の真っ只中で、国民はみな抑圧された暗黒の時代だったと教わった。

しかしそんな中,神武天皇即位から数えて二千六百年というこの年に国を挙げての大イベントが繰り広げられていた事は戦後になってほぼ「なかったこと」になってしまってほとんど語られることはなかった。

この本ではその国家事業的色彩のイベントに注目し、その詳しい内容と国民に与えた影響を考察する。

人々はこぞって聖跡を訪ねる旅行に訪れ、歌を歌い本を読み、国民皆積極的にイベントに参加した。

このイベントは国威発揚に大いに寄与し、健全なナショナリズムの醸成に大いに影響力を持った。

戦後になって作られた「15年戦争」「暗黒の時代」というイメージに一石を投じる。

著者は外国人ということもあって思想的にも冷静。

ただ章の最後の最後に何故か女性天皇の話になり、現在の日本の皇室典範改正の必要に言及する。

この部分はいかにも唐突で何らかの意図によって付け足された印象。

そこまではとても新たな視点で新鮮だったのに、最後の最後で不信感が残ってしまった。

震災があり原発事故があり世界的経済危機の今この時代は、後世にはどんな時代だったと評価されるのだろうか。

どう考えてもあまりいい評価は与えられないような気はするが…。

しかし時代の評価というのはあくまでその後の歴史の流れで判断されるもの。

極論すればこの15年戦争の時代だってもし戦争に勝っていたら「八紘一宇五族協和に向かって国民が一致団結して突き進んだ栄光の時代」と評価されていたかもしれない。

歴史的評価はその後の歴史の推移いかんでどっちにも転ぶもの。

なので今この自分たちが生きているこの時代、後の世の本には「大きな震災原発事故にもめげず日本国民が一致団結して乗り越えた素晴らしい時代」と書かれたいものだ。

★★★★


三陸海岸大津波 (文春文庫)三陸海岸大津波 (文春文庫)
(2004/03/12)
吉村 昭

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明治29年と昭和8年に三陸地方を襲った大津波

そこに出てくる地名は今回自分が実際に見て回ってきた地名と全くそのまま重なる。

「歴史は繰り返す」とは言い古された言葉だがまさにこの言葉以外の何ものでもない。

この本が震災前にもっと読まれていたらと痛恨の極みである。

この本が書かれたのは41年前。

辛うじて昭和の大津波を体験した古老の証言を得ることができている。

そこで証言される情景は今回と全く同じ。

それから現在に至るまで大津波体験者はいなくなってしまった事に加えて巨大防潮堤など津波に備えた設備を整えた事が逆に安心感につながってしまった面もある。

完全に歴史は繰り返された。

返す返すもこの本がもっと多くの人に読まれていたら犠牲者は随分減っていたのではないかと思うと痛恨である。

また数十年後に同じ事が繰り返された時にはどうなるのか。

中でも職務に殉じて亡くなってしまった方々、逃げようとしなかった人々の心理、これは徹底的に検証されるべきであろう。

★★★★★


RDG4 レッドデータガール 世界遺産の少女 (カドカワ銀のさじシリーズ)RDG4 レッドデータガール 世界遺産の少女 (カドカワ銀のさじシリーズ)
(2011/05/28)
荻原 規子

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このシリーズ4作目。

これまでの流れの中で物語的にはちょっと展開が小休止といったところでちょっと不完全燃焼感がある。

その分この先の展開につながる伏線が散りばめられている予感。

次回作への楽しみが膨らむ。

5作目はもう出ているようなので続きが気になる。

★★★★


新・消えた轍1  (北海道) (NEKO MOOK 1661)新・消えた轍1 (北海道) (NEKO MOOK 1661)
(2011/07/30)
寺田 裕一

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新・消えた轍 2―ローカル私鉄廃線跡探訪 (NEKO MOOK 1627)新・消えた轍 2―ローカル私鉄廃線跡探訪 (NEKO MOOK 1627)
(2011/08/30)
寺田 裕一

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新・消えた轍 4―ローカル私鉄廃線跡探訪 (NEKO MOOK 1532)新・消えた轍 4―ローカル私鉄廃線跡探訪 (NEKO MOOK 1532)
(2010/07/30)
寺田 裕一

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寄せ集めのてんでバラバラの車両がごった煮でやってくる。

規格の違う車両さえも強引に連結してしまう。

鉄道好きにはまさに夢のワンダーランド。

これぞ60年代~70年代の地方私鉄の醍醐味。

しかし現在ではこんな超ローカル私鉄は過疎化のため廃止され、残った鉄道でも車両の統一化が進み、こうした光景は見られなくなってしまった。

この本はそんな夢のような時代をとらえた写真満載の資料集。

これが面白くないわけがない。

しばしタイムスリップしてそんな時代に思いを馳せる。

もう二度と戻らない光景。

★★★★★