チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

真夏のビーチボーイズ

ビーチボーイズとの初めての出会いは高校の時に友だちから借りたベスト盤『ENDLESS SUMMER(終わりなき夏)』だった。

初期のヒット曲を網羅したこのアルバムでそのポップなメロディーと美しいハーモニーの虜になった。


終わりなき夏終わりなき夏
(1999/07/07)
ザ・ビーチ・ボーイズ

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それからしばらくはずっとこのアルバムを聴いていたのだが、転機が訪れたのが大学生の時。

ビーチボーイズが好き」と言っていると先輩に「これは聴いておけ」と渡された一本のカセットテープ。

タイトルは『Pet Sounds』と書いてあった。


Pet SoundsPet Sounds
(2001/04/13)
The Beach Boys

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早速帰って聴いてみたが、いかんせんカセットだしモノラルだし音がモコモコしているし、何よりそれまで聴いていたビーチボーイズの突き抜けるような爽やかさがない何やら陰鬱とした音楽で、正直最初に聴いた時はピンとこなかった。

しかしそれまで聴いたことのないこの世のものとは思えないそのサウンドと、泣きたくなるほど美しいそのハーモニーの秘密を探りたくて何度も聴いているうちに、その底知れぬ深い音の世界にハマっていった。

そしてこの音を作り上げたのはビーチボーイズのリーダ、ブライアン・ウィルソンであり、当時の最先端のこの音はあのビートルズにも大きな影響を与えた、などという事実を段々知っていくにつれ、他のアルバムにも手を出すようになった。

時を同じくして、薬物中毒で長年に渡り廃人と噂されていたそのブライアン・ウィルソンが奇跡のソロアルバムを発表。

なんというタイミング!

そしてそのアルバムが素晴らしく、完全にビーチボーイズの世界にどっぷりと足を踏み入れてしまった。


Brian WilsonBrian Wilson
(2000/09/11)
Brian Wilson

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そこから先は世界的にも全く無視されていて廃盤となって手に入りづらかった70年代のアルバムを中古レコード屋で探す日々。

この70年台の円熟して落ち着いたサウンドがまた素晴らしく、どうしてこれが売れなかったのかがサッパリわからなかった。

時を同じくしてブライアンのソロアルバムを契機として世界的にビーチボーイズ再評価の波が広がり、その後70年代のアルバムもCD化されるようになり手に入りやすくなったことは幸運だった。

70年代のビーチボーイズの代表作『Sunflower』と『Surf's Up』


Sunflower (Stereo)Sunflower (Stereo)
(2012/09/25)
Beach Boys

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サーフズ・アップサーフズ・アップ
(2008/12/10)
ビーチ・ボーイズ

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その後今度は初期作品に戻って聴きだした。

その荒削りながら若々しくも瑞々しい勢いのあるそのサウンドは、アメリカのロックの歴史そのものだった。

そんなビーチボーイズにどっぷりとハマっている頃、91年に武道館で来日公演があった。

もちろん素晴らしいコンサートだったが、そこにはブライアンの姿はなかった。

ブライアンはブライアンでソロツアーで来日。

こちらも素晴らしいステージを見せてくれた。

しかしその後ブライアンの弟でビーチボーイズのライブの中核だったカール・ウィルソンが癌で亡くなり、メンバー間で訴訟合戦が繰り広げられているありさまで、ブライアンとビーチボーイズの和解はもう不可能と思われた。

それが結成50周年を前にして1967年に発売中止となり長年に渡り幻の名盤とされてきた『Smile』のまさかまさかの奇跡の公式発売。


スマイルスマイル
(2011/11/02)
ビーチ・ボーイズ

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これだけにとどまらずビーチボーイズとしての驚きの新作アルバムの発表、そしてその驚くべき完成度の高さと、信じられないニュースが続いた。


ゴッド・メイド・ザ・ラジオ~神の創りしラジオゴッド・メイド・ザ・ラジオ~神の創りしラジオ
(2012/06/04)
ビーチ・ボーイズ

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そして極めつけの今回の来日公演の発表。

ブライアンがビーチボーイズとしての来日公演は何と33年ぶりとのこと。

これが狂喜乱舞せずにいられようか。

こんな経緯があるので、ライブ当日まで本当にブライアンがステージに現れるのか心配だった。

しかし、現れてくれた!

ブライアンがステージに現れた瞬間のQVCマリンフィールドのどよめきと歓声は凄まじかった。

2012.8.16 QVCマリンフィールド

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着いた時間が遅くて前座の星野源のステージには残念ながら間に合わなかった。

見たかったんだけどね。

そしてもうひとつの前座アメリカ。

実は全く曲は知らなかったんだけど、いぶし銀のステージですごく良かった。

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さあそしていよいよビーチボーイズ登場!

一曲目はドラムのイントロからメンバーが現れて『Do It Again』。

まさに今回の再集結にふさわしい曲。

それからほとんど曲間を挟まずにサーフィンメドレーに突入。

続いてホットロッドメドレー。

70代のおじいさんたちが飛ばす飛ばす!

しかもどの曲もみんなロック史に燦然と輝く名曲ばかり。

こんなに楽しい時間はない。

改めてブライアンの才能にひれ伏した。

今回個人的には初めてのスタジアムコンサートで、音響面で心配していたのだが、PA素晴らしい!

ホールコンサートと遜色のない、いやそれ以上にいい音だった。

東京ドームとは全然違う。

IMG_0527.jpg

以下メンバーを見ての印象。

ブライアンは数年ぶりに見たけどやっぱり歳取ったな〜。

出てくる時足元がおぼつかなくてどうなることかと思ったけど、『Good Vibrations』『英雄と悪漢』そして何と『Sail On Sailor』など見事にしっかりメインボーカル張っていた。

マイクはすごい!常にフロントで最後まで頑張った。

ブライアンは自分のメイン以外は力を抜いて休んでたけどマイクは常に全力投球。サービス精神も旺盛。

やはりライブバンドとしてのビーチボーイズは彼のお陰でもっていたことを実感。

アルは歌が一番安定していた。コットンフィールズなんて現役そのまま。

ブルースは見せ場が殆ど無くて残念。

ディズニーガール聴きたかったけどもう歌えないのかな〜。

そして今回一番驚いたのがデビッドマークスの参加。

ところがどっこい、ほとんどのギターソロを受け持ち立派にギタリストとしてカールの代わりを務めていた。

『God Only Knows』と『Forever』ではそれぞれスクリーンに在りし日のカールとデニスが大写しになり涙。

そして歌もどうやら在りし日の本人の歌声だったようだ。

これが泣かずにいられようか。

スクリーンに映る今は亡き弟二人をじっと見つめるブライアンは何を思う。

なんといっても圧巻はやはりさすがのコーラスワーク。

人数も多いのでものすごい分厚い迫力のハーモニーだった、

バンドの演奏も安定していて素晴らしい。

ただバンドを支えるジェフリーフォスケットは調子がイマイチだったか?

PAのバランスのせいかもしらんけど。

贅沢言えば彼の声がもっと突き抜けて欲しかった。

個人的にこのライブのハイライトはブライアンがリードを取った『Sail On Sailor』と、思わず大声で歌ってしまった『Help Me, Rhonda』。

『Sail On Sailor』はブライアンの振り付きで力のこもった歌を聴かせてくれた。

『ヘルプミー…』は今まで特に好きな曲ではなかったけれどライブでこんなに盛り上がれる曲だとは思わなかった。

そしてアンコールで何と!ビックリサプライズゲストでクリストファークロスが登場して『ココモ』のカールのパートを歌った。

これが素晴らしく良かった。

思わずクリストファークロスに「You、ビーチボーイズに入っちゃないYO!」と言いたくなってしまった。

客席は最初から最後まで立ちっぱなしの100分間。

観客の年齢層もかなり高かったが、ステージ上のおじいちゃんたちがこんなに頑張っているのに座ってなんかいられない。

本当に素晴らしいライブだった。

正直、まさか70歳のおじいちゃんたちがこんなに素晴らしい演奏をしてくれるとは想像もしていなかった。

どちらかと言うとブライアンの単独公演は『ありがたく聴かせていただく』という感じなのだが、マイク中心のビーチボーイズは本当に観客もステージも一緒に楽しめる、音楽をみんなで一緒に楽しむことができるステージ。

年齢を考えるとおそらくもうこれで最後と思われるので、この瞬間、この場にビーチボーイズと一緒にいられて本当に幸福な時間だった。

ありがとうございました。

感謝。