一橋文哉『モンスター 尼崎連続殺人事件の真実』
あのグリコ森永や3億円事件で名を馳せた一橋文哉氏待望のレポ。
後発本だけあってこの前読んだ『家族狩り』で一番の謎だった「角田美代子は家族乗っ取りというおぞましいノウハウをいかにして習得したか」の謎の一端がこれで解明される。
しかし「警察は何故数多くあった通報を無視し、美代子グループの暴走を見逃し続けたのか」は未だに謎である。
彼らは「自分たちは絶対に捕まらない」と高をくくっていたフシがある。
この奇妙さは「民事不介入」では片付けられない。
肝心の主犯が死んだ今、この闇が解明されることはあるのだろうか。
小野一光『家族喰い―尼崎連続変死事件の真相』
未だ記憶に新しい連続監禁殺人事件。
この被害者加害者が複雑に入り混じった人物相関図は何度見直しても容易には理解できないほど入り組んでいる。
それにしても家族に入り込み暴力と甘言で人格をコントロールして分断し、恐怖で一方的に支配し最終的には家族もろとも破滅させるというこのおぞましいノウハウは角田美代子という一人の怪物が独自に編み出したものとはとても思えない。
この背後には底知れない闇があるであろうことは間違いない。
しかしその謎はこの本だけでは窺い知ることができない。
佐々淳行『私を通りすぎた政治家たち』
言わずと知れた危機管理のエキスパートが過去自分と関わった政治家たちを回顧する。
中でも三木武夫や加藤紘一や小沢一郎に菅直人らを辛辣に批判する一方、著者と思想信条が正反対のはずの不破哲三や上田耕一郎らに対して一定の高い評価をしているのが面白い。
市橋達也『逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録』
言わずと知れた殺人犯の2年7ヶ月に渡る逃亡生活を自ら綴る。
彼のしたことはひとまず置いといて、謎に包まれていた逃走と潜伏の一部始終が奇妙なほど淡々と語られる逃亡記として面白かった。
あれほどの長い期間逃げおおせたのは彼の持つ独特な危機察知能力の賜物なのだが、そんな彼でも最後追い詰められるとあれほどあらゆる可能性を考えられたはずの思考が狭まり一つの考えに固執してしまい、その結果逮捕に至る過程が非常に興味深かった。
出光興産創始者の一代記。お話しとしては面白かったが、やや全てが綺麗事に過ぎるきらいがある。
美化し過ぎというか。
まあ伝記や立志伝というのははそういうものか。