チェリーの音楽幕府

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今更ながらの後追いで聴くユーミンアルバムレビューーその7ー(1993-1997)

80年代後半から90年代にかけてのバブル絶頂期のバカ売れ時期を過ぎ、社会的にはバブルは弾けるも更なるセールスを求められる中、新たな音楽を探求し続ける試行錯誤の時期に入った感がある。

さて、そんな状況で90年代のユーミンは一体どんな作品を作っていったのだろうか。
非常に興味深い。

 

25. U-miz('93)松任谷由実

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2作前の『DAWN PURPLE』あたりから作風に現れ始めたワールドミュージックエスニック風味が、ここでついに大ヒット曲『真夏の夜の夢』として一気に結実する。

当時はよくわからなかったが、こうして時系列で聴いていくと、この曲の衝撃度がよくわかる。
曲調といい歌い方といい、これまでのユーミンからはちょっと想像つかない大転換だったのだな。
おそらく以前からのファンは当時この変化にかなり驚いたのではないだろうか。
それでも大ヒットさせてしまうという所がまさにユーミンユーミンたる凄い所。

この『真夏の夜の夢』のインパクトと完成度があまりにも強烈なこともあってか、このアルバムは他の曲の印象がすっかり霞んでしまっている。

色々と新たな試みをしようとしているのはわかるのだが、やや迷走気味で、成功したのは『真夏の夜の夢』だけだった、という感じ。

★5

 

【この1曲】

真夏の夜の夢

というわけで一曲を選ぶとしたらもちろんこの曲。 

言わずと知れたユーミン最大のヒット曲だし、この曲が主題歌だったドラマも観ていたので自分もよく知っている曲だが、正直当時はアクが強すぎてあまり好きではなかった。
しかし今聴くとキャッチーで本当によく出来たいい曲だとわかる。
おそらく自分もここまでの全アルバムを聴いてきて「ユーミンの曲の楽しみ方」をしっかりと掴んだということもあるだろう。
アレンジに関しても、当時松任谷正隆氏が多用していてやや食傷気味だったオーケストラヒットが、この曲にはバッチリハマっている。
「冬彦さ〜ん!」あ、これは「マリオさ〜ん!」の方か。

 

 

26. THE DANCING SUN('94)松任谷由実

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しばらく迷走が続いていた中、ついに『真夏の夜の夢』の大ヒットで自信を取り戻したユーミンが満を持して世に送り出したのが、大ヒット曲『Hello,my friend』。
やや変化球気味だった前作『真夏の夜の夢』に対して、こちらは原点に立ち返ったかのような下降ベースの堂々たるポップスの王道で、漲る自信をひしひしと感じる。

しかしこれだけにはとどまらず、更に続けざまに送り出したのが、ユーミンの生涯を通じての代表作と言っていい『春よ、来い』というのだからこの時期の充実ぶりは凄まじい。

そんな大ヒット曲2曲が収録されているというだけで充分に名盤と呼べるのだが、それ以外の曲もこの時期の好調さを反映してかなりのクオリティを誇る。

中でも忘れてはならない重要曲が『砂の惑星』だろう。
近作見られていたワールドミュージックエスニック趣味が、『真夏の夜の夢』を経て更にここに深化している。
このアルバム全体を聴いて気付くのは、ユーミンの声や歌い方がこれまでとは変わりつつあるということ。
まあ若い頃からおばあちゃんのような不思議な声ではあったが、そんな中に時折見せる可憐な表情にキュンとさせられていたのが、このあたりになるとその可憐さが影を潜める。
特にこの曲などでは、ユーミン特有のちりめんビブラートをあえて強調し、更にホーミー的発声をまじえることで、さながら呪術師の老婆のような得も言われぬ妖しさを際立たせている。
この変化は、おそらく加齢的な声の変化が大きかったのだろうが、それを逆手に取って新たな表現の世界を手に入れるという、転んでもただでは起きない強かさが実に素晴らしい。
当時の自分はこの声がどうも受け付けなかったのだが、ユーミンの歌の楽しみ方を知った今では何とも言えず味わい深いものだ。

 久しぶりに90年代のユーミンに堂々たる名盤が誕生した。

★8

 

【この1曲】

『春よ、来い』

『Hello,my friend』も名曲だが、やはりここは『春よ、来い』にとどめを刺すだろう。。

近作のワールドエスニック趣味で無国籍調の曲が多くなってきたが、それが最終的にたどり着いて結実したのが、自らの生まれ育った「和」だったということか。
その純日本的「和」を表現するのに、安易に琴や尺八などの和楽器を使わずやり切るところに、松任谷正隆氏の心意気を感じる。

耳に残る印象的なピアノのイントロからラストの童謡『春よ来い』のコーラスに至るまで、どこを切っても完璧な紛うことなき名曲中の名曲。

 

 

 27. KATHMANDU('95)松任谷由実

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前作は久しぶりに入魂の傑作だったが、ここではやや力が抜けて趣味に走った感じで、例によってワールドミュージックエスニック風味があらゆる場面で全開。

特に『真夏の夜の夢』〜『砂の惑星』と繋いできた路線を受け継ぐのが『輪舞曲(ロンド)』。
これもまたコッテリしたむせ返るようなエスニックの香りがする曲。

そんな中にあって『Baby Pink』『Delphine』『Midnight Scarecrow』『Walk on,Walk on by』などはかつてのユーミンを彷彿とさせるような作風をアシッドジャズなど新しいアレンジで彩った楽曲で、古くからのファンは一安心したのではないだろうか。

とはいえ前作に入魂しすぎて力尽きたか、今作は全体的にかなり地味で印象に残らない曲が多い。(追記・この印象はしばらく聴いたのちに一変する。聴けば聴くほど良くなるスルメのようなアルバム)

声の変化は前作から更に進行していてやや心配なレベル。

★9

 

【この1曲】

『Walk on,Walk on by』

中々一曲を選ぶのも難しい楽曲群だが、敢えて選ぶならばこれか。
バカラック風味満載のアレンジで、メロディはかつてのユーミン節満開で安心する。
彼女はきっとこういう曲ならいとも簡単に、鼻くそほじりながらでも出来てしまうんだろうな。




28. Cowgirl Dreamin'('97)松任谷由実

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ジャケットを見て、「げっ、またバブリー路線に戻ったか!?」と不安になり、冒頭2曲は今までのユーミンには見られなかったハードなギターロックが続き、あげくの果てにはファイナル・カウントダウンのようなこっ恥ずかしいシンセブラスのイントロなんかも出てきちゃったりして「どうしたユーミン!?」と思ってしまった。

しかし全体を見れば『最後の嘘』という名曲を筆頭に、まずまずの佳曲が並ぶが、ラストの『まちぶせ』のセルフカヴァーは、残念ながら三木聖子や石川ひとみバージョンに遠く及ばない。どうして入れたのかな?

前作で心配された声だが、今作ではやや持ち直してしっかり出ている。

★6

 

【この1曲】

『最後の嘘』

堂々たる安心安定のユーミン節全開の名曲。
有無を言わせず圧倒的な感動を呼ぶ。

 

 

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