チェリーの音楽幕府

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今更ながらの後追いで聴くユーミンアルバムレビューーその9ー(2004-2011)

最近になってユーミンを聴き始めた自分にとって、先日の紅白歌合戦出場は非常にタイムリーだった。
とはいえ、最近の彼女の生歌には不安のほうが大きく、生出演には半信半疑だった。
しかし蓋を開けてみたら、そんな不安はどこかに吹っ飛ぶほどのさすがのスターのオーラとエンタテイメント性で本当によかった。
本編で披露した『ひこうき雲』と『やさしさに包まれたなら』もよかったが、特にラストのサザンオールスターズのステージに乱入して桑田佳祐と『勝手にシンドバット』を歌ったシーンは、昭和と平成という二つの時代を駆け抜け、また新たな時代に突入しようとするこの稀代の二つの才能にひれ伏す思いだった。まさに平成最後の紅白にふさわしい歴史的シーンだった。いいものを観た。

さて、アルバムレビューに戻ろう。
2000年代になり、アルバムのセールスは激減してしまったものの、ここ数作はそんな中でもしっかりと高クオリティの作品を作り続けてきたユーミン

年齢もいよいよ50代に入り、更に円熟した作品を生み出してくれるのか、楽しみだ。

 

33. VIVA! 6×7('04)松任谷由実

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冒頭、古い洋画の台詞のようなSEから始まり、田島貴男とのデュエットのスウィートソウルナンバー『太陽の逃亡者』、続いてゴージャスなアレンジのスパイ映画のような『恋の苦さとため息と』と来れば、まるで『女王陛下のピチカート・ファイヴ』を彷彿とさせる。
続く『Choco-language』の「イェイイェイウォウウォウ」コーラスもレトロな雰囲気を醸し出して中々面白い。

しかしそういうコンセプトアルバムかと思うのはここまでで、あとの曲は残念ながら正直もう一つ印象に残らない。

田島貴男とのデュエットも、もう一つハマっているとは言えない。

個人的にはやや低調に感じたアルバム。

【この1曲】

『霧の中の影』

そんな中から1曲を選ぶのも難しいが、強いて挙げるならばこの曲か。
ユーミン安定安心のバラード。

 

34. A GIRL IN SUMMER('06)松任谷由実

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しかしここで終わらないのがユーミンの底力。

これまでもそうだったが、基本的にクオリティの高い歴代ユーミンのアルバムの中でも、やや低調アルバムの次は必ず巻き返してくれる。
その例に違わず、今回も素晴らしいアルバムを作ってくれた。

 まず冒頭の波の音SEから始まり、そこに静かにフェードインしてくるストリングスとともに始まる1曲目の『Blue Planet』のイントロからもう一気に心引き込まれる。

そして2曲めにしていきなりこのアルバムのピークが訪れる『海に来て』。

それに続く『哀しみのルート16』は現代版サーフミュージックという感じで、ミュートギターの刻むリズムとアームを多用するサーフギターの音色が心地いい。

『もうここには何もない』は特に気合のこもったカッコいい曲。
「未来はいつもあとから来ては全てをさらっていく」という歌詞も冴え渡っている。

ユーミンといえば巧みな転調が魅力の一つだが、小室哲哉のような唐突な転調とは違い、必ず流れを伴った自然な転調なので、転調したことに気づかないこともあるくらいなのだが、『虹の下のどしゃ降りで』の転調は珍しくそんな中でも意外性を持つかなりインパクトの強いもの。
キーで言えばB♭からAそしてGそしてCという流れなのだが、そこにそれぞれのキーの基音となるトニックコードが一度も出現しない(多分意図的に)ので、一聴しただけでは調性の混乱が起きる。
ちなみにコードの流れは
E♭M7onF - B♭M7onF - E♭M7onF - Em7 - Bm7 - E13 - Bm7 - E13 - Am7 - D13 - Dm7onG
となるのだが、手元に楽器がある人は是非この流れを弾いてみてほしい。癖になるくらいに気持ちいい。よくもまあこんな流れを考え出すものだ。

 捨て曲なしのままラストの『Smile again』はビートルズテイストで、サビ前のギターのフレーズがかつての『セシルの週末』を思い出させて、古いファンも喜んだのではないだろうか。

うら寂しい曇り空の海のジャケットのイメージの通り、全編を通して憂いを帯びた落ち着いたトーンの良曲が並び、トータルアルバムとしての完成度も非常に高い。

2000年代にして、かつての80年代の名作に肩を並べる傑作が生まれた。
ユーミン実に52歳。その才能は枯れることを知らない。

ユーミン昔は好きだったけど最近はどうもなぁ」という人に是非聴いてもらいたい。

 

【この1曲】

『海に来て』

イントロの波の音を切り裂いてドラムのフィルからイントロが始まり、ふくよかなストリングスとボリュームギターが交互に押し寄せる波を表現するかのように次々と現れ、そのすべての音が心地よく、快感中枢をこれでもかと刺激してやまない。

サビの内声部で木の葉が舞い散るようにハラハラと下降していく柔らかいアナログシンセのフレーズがたまらなくいい。

最後はストリングスの穏やかな旋律に包まれ、再び波の音とフェードアウトしてくところまで本当にパーフェクトなポップミュージック。素晴らしい。

それにしても「微笑めるように」という日本語は初めて聞いた。

 

 35. そしてもう一度夢見るだろう('09)松任谷由実

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前作が久しぶりの傑作だったことで今作も期待して聴いたが、『Flying Messenger』 や『Judas Kiss』などユーミンらしいいいメロディの曲もあるが、うーむ、今回は全体的に低調か…。

とはいえ『Bueno Adios』ではタンゴに挑戦したり、『黄色いロールスロイス』では加藤和彦とデュエット(ほぼ加藤和彦生前最後に近い音源らしいのでそういう意味では貴重ではあるが)したりと色々工夫してはいるのだが、どうもパッとしない。
そもそもユーミンはこれまでデュエットだったりコラボだったりフィーチャリングだったり何人かとやっているけれど、どれも成功しているとは言い難い。
なんでかな?ユーミンの個性が強すぎて他人と合わせられない??

全体的にスネアのピッチが高い曲が多く耳に痛いことも気になる。

 

【この1曲】

『人魚姫の夢』

このアルバム、イマイチかな…と思っていたら、最後の最後の『人魚姫の夢』でぶっ飛んだ。

過去のユーミンの数多の名曲に肩を並べる素晴らしい曲ではないか!
これがあるからユーミンはあなどれない。これ一曲でこのアルバムの価値は一気に上がった。

メロディ、アレンジ、歌詞、すべてがうっとりするほど素晴らしいが、特に最後のサビ直前の、ダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッタカトントコトンというひたすらスネアとフロアタムを2小節に渡ってクレッシェンドしながら8分で連打するだけという、これ以上ないシンプルなフィルインが最高にドラマチック。
このフィル、以前にも聴いたことある気がするけどどの曲だったっけ…?

 

36. Road Show('11)松任谷由実

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個人的にもう一つの印象だった前作に比べ、『ひとつの恋が終るとき』『コインの裏側』『ダンスのように抱き寄せたい』といった佳曲もあり、ユーリズミックスのような出だしからいきなりポップなサビになる『今すぐレイチェル』も面白いし、『太陽と黒いバラ』ではビブラートをビンビンに効かせてユーミン全キャリアの中でも最もドスの利いたド迫力の歌唱を聴かせてくれたりと、聴きどころはたくさんある。
声もこのアルバムではかなり出ていてコンディションもいいようだ。

ただ、それぞれの曲はまずまずいいんだが、どうも以前あったようなユーミンならではの「うわーこう来たか!」と思わず唸ってしまうような部分が薄れ、曲がみんな妙に素直になってしまったような印象を受ける。

よく言えばシンプルでストレートとも言えないこともないのだが、個人的にはやや物足りない。

 

【この1曲】

『ダンスのように抱き寄せたい』

ここはやっぱり安心安定のユーミン節のこの曲。
年齢相応の歌詞と味わいがよく出た曲。

 

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