チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

『レッド』山本直樹

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山本直樹の手による『レッド 1969〜1972(1-6)』『レッド 最後の60日 そしてあさま山荘へ(1-4)』『レッド最終章 あさま山荘の10日間』合わせて全11巻を読了した。

連合赤軍関連本は昔からほぼ揃えていて、しかも何度も読み直すほど関心を持っているので、この『レッド』も当然興味は持ってはいたが、自分にとって漫画というのはどうも敷居が高く、おまけに巻数も多いので、これまで手を出すのに躊躇があった。 

しかしながら電子書籍Kindleであればいくら巻数が多くてもかさばることはないので、思い切って一気に大人買いして読み始めたら、これが実に面白かった。

これまで数々の連合赤軍本を読んできて連合赤軍の歴史と概要はしっかり頭に入っているので、同様に関連本の内容に即して忠実に描いてあるこのシリーズも「あ〜これはあの出来事に関して」とか「これはあの本のあのエピソード」のように、スラスラと読み進めることが出来た。

しかし一つ困ったのが、事件に関わった連合赤軍構成メンバーの名前が実名ではなく仮名になっていたこと。
なので読みながら「え〜と吾妻は…あ、◯◯で、岩木は…◯◯か」といちいち頭の中で変換作業をしなければならなかったので、その分余計な時間がかかってしまった。
その辺は逆に予備知識がない方がすんなり頭に入るのかもしれない。

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これまで所蔵の連合赤軍関連本

「面白かった」と書いてしまったが、もちろん事件そのものは面白くも何ともない。
しかもその凄惨極まりない事件の内容が具体的ななビジュアルとして視覚に飛び込んでくるものだから、その衝撃とリアリティは活字本の比ではない。読んでいて何度もスマホを放り投げたくなった。
作者自身もこれを描き進めるのは相当に苦しい作業だったことだろう。

しかしながら、半世紀近く前に起きたこの凄惨な事件が、今までなかったコミックという形で世に遺されるのは意義のあることだと思う。

実際に起きた事件を忠実になぞっているので、結末は最初からわかっている。
そこで、特定の登場人物に常に付いて回る数字の意味に気づいた時、戦慄が走る。
そして、しつこいくらいに全ての登場人物のその後辿った運命がこれでもかと執拗に表示されるという試みも、最初の方の和気あいあいとした学生サークルのノリが段々と変化していく過程を効果的に表現している。

「正義」の意識に凝り固まったいわゆる「意識の高い」者同士が、山岳アジトという世間から隔絶された密室的状況で陥る心理状態、そこで繰り広げられる偏ったイデオロギー思想の「純化」と「暴走」で、より過激でもっともらしいことを言う者に自然と従ってしまい、気づいたときにはもうその場から逃れることができなくなる。
これは連合赤軍に限ったことではなく、人間同じ状況に追い込まれれば決まったように陥ってしまうものであることは数々の歴史が証明している。

この容易に陥ってしまう人間の恐ろしさも、負の教訓として語り継いでいかなくてはならないことであろう。