チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

読書日記

9月に読んだ本

西加奈子『漁港の肉子ちゃん』 『円卓』が面白かったのでこちらも読んでみた。 例によって口に出して朗読したくなるテンポの良い文章に、独特の言葉遣い、いつまでも読んでいたい魅力的な登場人物、そしてこのインパクトのあるタイトル! 全てが素晴らしかっ…

8月に読んだ本

百田尚樹『カエルの楽園』 言うまでもなく昨今の我が国の憲法9条や安保法案関連にまつわる騒動を風刺した滑稽で恐ろしい寓話。 あまりの面白さに読み終わったあともう一度最初から読みなおしてしまった。 ここの登場人物を現実世界の人物や団体に当てはめて…

6月に読んだ本

カズオイシグロ『わたしを離さないで』 テレビドラマがとても良かったので原作を読んでみた。 歴史のちょっとした選択で十分有り得るような世界の物語。生まれながらの運命に飲み込まれた人々の恐怖と怒りと絶望が淡々としたトーンで描かれていてどっしりと…

5月に読んだ本

上橋菜穂子『炎路を行く者』 以前このシリーズを読んだ時に唯一未読だった作品。 若き日のヒュウゴとバルサの姿を描き、これによって壮大なこのシリーズが全て繋がり完結する。 二人の背景を知ったことでもう一度本編を読みたくなる仕組み。 10年後くらいに…

3月に読んだ本

石原慎太郎『歴史の十字路に立って』 石原慎太郎氏の自叙伝。あまりの面白さに時間を忘れて読み耽ってしまった。 GHQ史観や朝日新聞的思想にどっぷり浸かっていた子供の頃の自分にとって石原慎太郎といえば青嵐会でハマコーなどと一緒に吠えている極右危険人…

2月に読んだ本

下村敦史『闇に香る嘘』 江戸川乱歩賞受賞作ということでたまたま手に取った本。基本的にミステリーは得意分野ではないが中々面白かった。視覚を奪われた主人公の不安と恐怖がこれでもかと伝わってきた。あらゆる伏線が最後に解き明かされるのは爽快でありよ…

12月に読んだ本

原田伊織『明治維新という過ち―日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』 我々が歴史の教科書で習ったのが「封建的な江戸幕府に抑圧されていたこの国を幕末志士達の活躍により一気に近代化への道を開いた」とされる明治維新。 司馬遼太郎の小説で活き活きと…

11月に読んだ本

白土三平『カムイ伝』 全15巻、4ヶ月かけて読了。 子供の頃ちょっと目にしてその陰惨さがトラウマになっていたが、改めて読み返してみると要するに階級闘争史観に基づいた漫画版プロレタリア文学だ。 発表当時の時代背景として学生運動周辺で熱狂的に支持さ…

10月に読んだ本

青木理『誘蛾灯』 鳥取連続不審死事件。 同時期に明るみになった首都圏の事件と同様の容姿の冴えない女を巡って多くの男が不審な死を遂げた。 しかしこちらはあちらのような似非セレブ的華やかさや人々の興味を惹くセンセーショナルさは全く無く場末の陰惨さ…

8月に読んだ本

伊東潤『峠越え』 凡庸なる己を自覚する家康。 故に目の前の山を着実に一つ一つ乗り越えることで生き残ってきた。 そしてさらなる大きな山が次々を目の前に現れる。 本能寺の変の新解釈。 そして最大の危機伊賀越え。 例によってこの人の作品は登場人物の人…

7月に読んだ本

松本麗華『止まった時計』 言わずと知れたオウム麻原の三女アーチャリー。 当時あれだけ面白可笑しく報道された人物。 常人には到底理解の及ばない壮絶な人生を送ってきたことは間違いなく、それ相当の苦労もあったようだ。 そんな現在の自分の立場をしっか…

6月に読んだ本

黒柳徹子『トットひとり』 ザ・ベストテンの裏話から遡り、向田邦子や渥美清、森繁久彌、沢村貞子等々、テレビ草創期から家族同然の付き合いをした今は亡き同志たちとの思い出を語る。 トットひとり 作者: 黒柳徹子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/04…

4月に読んだ本

浅田次郎『赤猫異聞』 明治維新のドサクサの江戸の大火で牢屋敷から解き放ちとなった三人の重罪人。 「三人のうち一人でも戻らなければ戻った者も死罪、三人共戻れば全員が無罪」というお話。 安心安定の浅田節で面白く読めた。 ただ彼の他の名作と比較する…

3月に読んだ本

岩井志麻子『瞽女の啼く家』 明治の岡山、盲た女達が共同生活する屋敷。 三人の盲女がそれぞれの視点で語るおぞましくも因果な生い立ち。 岩井志麻子の世界にどっぷり。 瞽女の啼く家 作者: 岩井志麻子 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2005/10/01 メディア…

2月に読んだ本

佐藤正午『アンダーリポート』 この作家の作品は初読だったが、とにかくその構成の妙に作者の手の平で転がされる心地よさ。 最後まで読んだ人は間違いなくまた第一章を読み返すだろう。 アンダーリポート (集英社文庫) 作者: 佐藤正午 出版社/メーカー: 集英…

1月に読んだ本

筒井康隆『繁栄の昭和』 宮沢賢治、太宰治と並んで10代の頃の自分の三大作家だった筒井康隆。 当時全集を読破する程だったが、あの断筆宣言以降は全く遠ざかってしまっていたので久しぶりに新作を読んでみた。 御大独特の読者を煙に巻くメタフィクションの世…

12月に読んだ本

上祐史浩『オウム事件 17年目の告白』 あの上祐が麻原彰晃とオウム真理教と事件そしてその後を当事者でしか知り得ない事実を元にかなり踏み込んで語る。 かつての師麻原に関しての側近であったからこその辛辣な考察は十分に説得力がありやはり頭の良い人物だ…

11月に読んだ本

豊田正義『消された一家―北九州・連続監禁殺人事件』 人を自在に操る天才的悪魔的能力を持った男が一家を支配し、ついには家族それぞれ殺し合い遺体の解体までさせるという、日本犯罪史上最もおぞましいこの事件。 読み進めるのにも気分が悪くなる。 しかし…

10月に読んだ本

一橋文哉『モンスター 尼崎連続殺人事件の真実』 あのグリコ森永や3億円事件で名を馳せた一橋文哉氏待望のレポ。 後発本だけあってこの前読んだ『家族狩り』で一番の謎だった「角田美代子は家族乗っ取りというおぞましいノウハウをいかにして習得したか」の…

9月に読んだ本

奥泉光『東京自叙伝』 太古の時代から東京の地に棲み着き、様々な動物や人間の姿を借りて渡り歩く正体不明の東京の「地霊」が語る「自叙伝」。 まずその奇想天外な発想が非常に面白い。 様々な「人生」を歩みながら東京で起きたいろいろな事件に関わっていく…

8月に読んだ本

浅田次郎『一刀斎夢録』 『壬生義士伝』『輪違屋糸里』に続く浅田新選組シリーズ。 今回の主役は新選組三番隊長斎藤一。 幕末の京都から戊辰戦争、そして西南の役に至る様々な場面での斎藤の姿を語る。 その中で坂本龍馬暗殺や西郷が起った真相など独自の解…

7月に読んだ本

広田寛治『ロック・クロニクル1952~2002―現代史のなかのロックンロール』 50年台ロックの誕生から70年代までの歴史を、主にアメリカ公民権運動やベトナム反戦運動など当時の世界情勢と絡めて分析する。 後追い世代には改めて時代と共に時系列がわかると目か…

6月に読んだ本

三島由紀夫『午後の曳航』 日本文学を読みなおそうシリーズ 自らを振り返っても思い当たって思わず叫びだしそうになる、少年期の未熟な全能感と無謬性、そして現実世界への尊大な虚無感。 ここにそれを更に増幅させる煽動者と同志の存在があることによりそれ…

5月に読んだ本

そこでまずは安部公房『砂の女』 日本文学を読みなおそうシリーズ 昔読んでるはずなのだが初めて読むかのような鮮烈な衝撃を再体験できた。 やはりこれは名作だ。 不条理。 まさに不条理。 しかしこの作品が発表された十数年後に日本人が隣国に拉致されると…

4月に読んだ本

吉村昭『脱出』 終戦時日本各地で人知れず繰り広げられた歴史には残らない壮絶な物語を、少年の目を通して淡々と語る短篇集。 どんなに悲惨なエピソードも筆者独特の淡々とした筆致で描かれるので、どれも深い読後感が残る。 脱出 (新潮文庫) 作者: 吉村昭 …

3月に読んだ本

宮脇淳子『真実の満洲史』 満洲国建国で日本は悪の限りを尽くしたかのように教えられてきた。 しかしその全て日本が悪いという歴史は戦後中国共産党とコミンテルンとアメリカの利害が一致した帰結であり、日本はそれを長い間甘んじて受け入れてきた。 まあ戦…

2月に読んだ本

舞の海秀平『土俵の矛盾~大相撲混沌の真実~』 朝青龍バッシングにはじまり八百長疑惑などここ数年の大相撲をめぐる報道に強烈な違和感を感じていたが、この書で舞の海がその全てを代弁してくれていた。 全面的に共感。 大相撲は行司の装束やちょんまげ土俵…

1月に読んだ本

吉村昭『漂流』 江戸時代、南海の孤島に奇跡的に漂流し12年間生き延びついには自力で船を作って生還した男の物語。 極限状態の上に次々と襲いかかる絶望的な出来事、次々と死んでゆく仲間。 ついには一人となった孤独と絶望と生き抜く力が淡々とした筆致で描…

12月に読んだ本

湊かなえ『夜行観覧車』 ドラマは観ているのが苦痛で途中脱落したが、原作も『告白』のようなドキドキ引きこまれ感も全くなくやはり最後まで苦痛のままだった。 登場人物が嫌な奴ばかりでこれでもかこれでもかと気が滅入り、かといって最後までこれといった…

11月に読んだ本

湊かなえ『告白』 最初から最後まで緊張感が持続し一気に読まされた。 同じ出来事が複数の人物の視点から語られることによって現在の教育現場の常識と建前と現実の矛盾がこれでもかと曝される。 そこに正解などはなく全く救いはない。教師視点の第一章が全て…