江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者
第2巻 パノラマ島綺譚 第3巻 陰獣 第4巻 孤島の鬼 | 江戸川乱歩 |
江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)<再読> (2004/07/14) 江戸川 乱歩 商品詳細を見る |
「二銭銅貨」「D坂の殺人事件」「屋根裏の散歩者」「人間椅子」他全22篇
俺にとっての10代の頃に多大な影響を及ぼした三大作家といえば、宮沢賢治、江戸川乱歩、筒井康隆。
中でも江戸川乱歩はこれまで二度全集で全作品を読破している。
大学の卒論のテーマも乱歩だった。
(卒論自体はレコーディングと重なってしまってお粗末極まりないものだったが…)
さあ、近頃またムラムラと乱歩読みたい病衝動がわき上がり、気がつけばキッチリ10年毎に訪れる今回も全集読破の季節が巡って参りました。
今回で三度目の全集読破、過去二回は講談社版だったが、今回は趣向を変えて光文社文庫版全集でチャレンジしてみることにした。
この光文社文庫版、それぞれの作品に乱歩自身の筆による自作解説がついているのがとてもよい。
全30巻、昔と比べてかなり読書スピードが遅くなってしまったので何ヶ月かかるかわからないけれど、これからしばらくの間お付き合い下さい。
さて、まずは第一巻。
江戸川乱歩初期の短編作品群。
日本初の本格的探偵小説として非常に評価が高い。
・・・のだが、個人的にはもう少しあとの大衆向けの長編作品が好きなので、この初期の短編群は今読むとさほど面白いわけではない。
とはいえ確かにこれが初めて登場した時の衝撃は想像するに余りある。
なにしろ時代は大正なのだ!
「D坂の殺人事件」では早くも明智小五郎が登場する。
★★★★
パノラマ島綺譚―江戸川乱歩全集〈第2巻〉 (光文社文庫)<再読> (2004/08) 江戸川 乱歩 商品詳細を見る |
「闇に蠢く」「湖畔亭事件」「空気男」「パノラマ島綺譚」「一寸法師」
この辺りから段々面白くなってくる。
「湖畔亭事件」「空気男」あたりはまだまだ初期の本格路線だが、「闇に蠢く」ではカニバリズム(人肉嗜食)の異常性が早くも存分に発揮され、「一寸法師」では、まだ吹っ切れ度が足りないものの、のちの大衆向け活劇長編の萌芽が見られる。
乱歩の要素の中で俺が一番好きな部分である浅草描写は、ここでも素晴らしい迫力とリアリティを持って表現されている。
「パノラマ島綺譚」は乱歩の耽異的嗜好が余す所無く発揮された作品。
これでもかこれでもかとばかりに人工的に作り出されたパノラマ島の描写が続いて、少々退屈するくらい。
このパノラマ島こそ、まさに後の世のテーマパークの走りである。
乱歩が生きていたら今の世のディズニーランドをどう思っただろう?
★★★★
江戸川乱歩全集 第3巻 陰獣 (光文社文庫)<再読> (2005/11/10) 江戸川 乱歩 商品詳細を見る |
「踊る一寸法師」「鏡地獄」「木馬は廻る」「陰獣」「芋虫」他全14篇
俺にとっての江戸川乱歩三大傑作。
それは長編では文句なく『孤島の鬼』短編では『押絵と旅する男』そして『芋虫』だ。
この三編が書かれたのが全てこの一年に集中している昭和4年の驚異的な充実期にいよいよ突入する。
何といっても『芋虫』である。
この短編を初めて読んだ時のその衝撃度は俺が今まで読んだ小説の中でも最高峰に位置する。
衝撃的であると同時に、何とも言えない哀愁と切ない読後感に襲われる。
あのカタカナ三文字に全てが凝縮されている。
今読み返してもその感動は全く薄れる事はない名作である。
時代柄、伏せ字部分が非常に多いが、そのほとんどは巻末の解題で明かされる。
そして『陰獣』。
何というタイトルだ。
江戸川乱歩のタイトルのセンスは本当に素晴らしい。
例えば『人間椅子』『空気男』『孤島の鬼』『蟲』『盲獣』『黒蜥蜴』そしてこの本に収められている『空中紳士』そしてその原題である『飛機睥睨』等等等…。
どれもタイトルだけで想像力を喚起する素晴らしい命名センスだ。
これも『淫獣』だったらいかにもなところを『陰獣』としたところにセンスを感じる。
どうだこの字面を見ただけで漂ってくるおどろおどろしさよ!
その他、『踊る一寸法師』『火星の運河』『木馬は廻る』あたりの短編も、この時期の乱歩独特の世界が紡ぎ出される秀作だ。
★★★★★
江戸川乱歩全集 第4巻 孤島の鬼 (光文社文庫)<再読> (2003/08/08) 江戸川 乱歩 商品詳細を見る |
「孤島の鬼」「猟奇の果」
さあいよいよ誰もが認めるであろう江戸川乱歩の最高傑作長編「孤島の鬼」である。
これを初めて読んだ時は、息もつかせぬ展開にと衝撃的な内容に、朝まで掛かって一気に読み切った事を思い出す。
読み終わったあとは「ふぅ…」とばかりに放心状態となり、そのまま学校へ行ったが、授業は上の空で一日物語を頭の中で反芻して味わっていた。
これを読んだのはもう何度目になるだろう?
全集を読むのは三度目だが、この一編は何度も読み返した。
今回は久しぶりで十年振りに読んだが、やっぱり面白かった。
物語は大きく三部構成になっていて、前半は謎解き推理もの、中盤は乱歩独特の異常な人外的エピソード、そして終盤は宝探しの冒険活劇と、この一編で乱歩のあらゆる要素が楽しめる。
まあさすがに読むのも何度目かになれば、色々疑問点も目につく。
例えば、あの老人がそんなに神出鬼没な行動力があるのだろうか?とか、深山木があの日海水浴場へ行くのをどうやって予測できたのだろうか?とか、初代、諸戸、深山木のあまりにも出来過ぎている過去の接点、等々。
とはいえ、そんな疑問は全く問題にならないほどの迫力で,今回もやはり一気に読み切ってしまった。
次にまた10年後に読むのが今から楽しみだ。
もう一編、「猟奇の果」は、乱歩自身も認める失敗作で、前半と後半が全く違うお話しになってしまっている。
前半は本格推理もの、後半は唐突に明智小五郎が登場してチャンバラものに変化する。
とはいえ、これはこれでやはり乱歩、楽しむポイントは沢山ある。
★★★★★