大貫妙子&坂本龍一 UTAUツアー@川口リリアホールに行ってきた。
生涯忘れない日となった。
今回のツアーは初日からUSTREAMで中継するという初の試みだった。
これは、当然自分が観る時までにネタバレにもなるし、毎回観ていたら飽きてしまうのではないかという不安もあったが、そんな事は全くなかった。
それどころか回を重ねる毎に「この音を実際に生で体験してみたい!」という期待の方が大きく膨れていった。
この感覚は今後のUSTREAM配信の可能性という意味で大きな判断材料になるだろう。
そしてついにやってきた川口リリアホール。
席はなんと前から4列目の教授側!
ピアノを弾く教授の手元がバッチリ観れる超良席。
アルバム『UTAU』も毎日繰り返して聴いて予習も万全だし、もうこれ以上ない準備は整った。
照明が落ち、しばらくの間を置いて二人がステージに登場した。
満場の拍手の後、しばしの静寂。
最初の一音が出るまでのその緊張感たるやハンパではなかった。
曲が始まってからもずっとその緊張感は持続し、呼吸をすることすらためらってしまうくらいで、実際ふと気が付くと息を止めて聴きいっている瞬間が何度もあった。
ステージの照明も驚くほど暗く、前から四列目という近い席でもよく目を凝らさないと二人の表情が伺い知れないほど。
ピアノの音もほとんどPAを意識しないくらいの生音に近い出音。
途中MIDIでシンセと同期する曲があるのだが、それまでステージ上のピアノの方向から聴こえていた音がシンセの音だけはハッキリとスピーカーから聴こえてきたので、実際にほとんど生音主体なのだろう。
大貫さんの声もリップノイズや喉鳴りまでも聴こえてしまうくらいの恐ろしいほどの静寂の空間。
なので客も否応無しに出てくる音の一つ一つに集中する。
しかしそれが苦痛なのではなく、二人の奏でる歌とピアノの会話に耳をそばだてて身を委ねることが何とも言えず心地よく楽しい。
こんなライブは初めてだ。
しかし何より自分で驚いてしまったのは、二人がステージ上に出てきて演奏が始まってしばらくして突然自分に訪れた感情。
それは思いもよらない激しい感情だった。
ステージに出てきた二人を見ていて、「あー自分はこの二人がいなければ音楽をやっていなかっただろうな…」ということを考えた瞬間、坂本龍一の音楽に初めて触れた時の衝撃とその頃の自分の情景が強烈にフラッシュバックしてきた。
小学生の頃初めて聴いて打ちのめされたYMO、そして中でも特に教授を神と崇め心酔し切った十代。
自分が音楽を志し、そして自分の音楽を形作ったのはまさしくこの人に他ならないのだ。
その人がすっかり白髪となり東海林太郎のような眼鏡をかけていかにも初老といった出で立ちで、今目の前で静かにピアノを弾いている。
そしてその坂本龍一の仕事の一つとして大貫妙子と作り出した音楽にどっぷりハマったのも十代。
そんな二人が実に30年近くの歳月を経て再びこうして自分の前で一緒に演奏をしてくれているというこの奇跡。
その途方もない時の流れを思った時、抑え切れない感情が激しくこみ上げてきた。
十代の頃は夢中になって聴いていた二人の音楽も、その後は正直遠ざかってしまっていることもあった。
しかしもちろん常に気になる大きな大きな存在であった。
その自分のルーツと言える音楽に、長い年月を経てついにまた戻ってきた。
そしてそのステージ上で繰り広げられる演奏は、まさにこの今でないと考えられなかった音楽。
この自分にとっての神である二人が、長い年月と経験を経てついにたどり着いたのがこの音楽。
それをこんなに近くでこの目と耳で感じられる幸せ。
もう自分はこの二人の音楽から離れることはないだろう。
本当に音楽っていいものだ。
自分も音楽をやってきて本当によかった。
全ての思いがここに結実した瞬間だった。
自分の人生の中で、しっかりと深く刻み込まれた日となった。
この日のことは生涯忘れることはないだろう。