チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

11月に読んだ本

豊田正義『消された一家―北九州・連続監禁殺人事件』

人を自在に操る天才的悪魔的能力を持った男が一家を支配し、ついには家族それぞれ殺し合い遺体の解体までさせるという、日本犯罪史上最もおぞましいこの事件。

読み進めるのにも気分が悪くなる。

しかしこの男がどのようにしてこの悪魔的能力を持つに至った経緯は全くわからない。

そしてその人を支配し操作する手法は最近の尼崎の連続殺人やオウム真理教事件、そして連合赤軍事件と全く同じ構造だということがよくわかる。

実際尼崎の主犯の女は実際にこの事件を研究し参考にしていたらしい。

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

消された一家―北九州・連続監禁殺人事件 (新潮文庫)

 

 

竹内洋『革新幻想の戦後史』

岩波『世界』や丸山眞男に代表される戦後の「進歩的知識人」そして「左派にあらざればインテリにあらず」といった空気、戦後教育現場に蔓延った日教組

こうした大衆モダニズムの帰結としての「革新幻想」がいかにして醸成されたか。それを著者の経験に基づいて考察。

ここから個人的感想。

今となっては「進歩的知識人」なるものは嘲笑の対象でしかありえないが、当時の学生はもちろん大真面目に信奉していた。

反戦反核、自由平等、そうした耳障りのいいスローガンを掲げ、問題意識に意気盛んな学生のインテリ的自尊心をくすぐり、左翼的思考イコール「進歩的」「革新的」という錯覚に導いた当時の左翼陣営の戦略は実にお見事ではある。

この本で当時の言論界や大学を覆っていた空気は理解できたが、それでは何故戦後の教育界に左翼が蔓延したのかまでの言及はない。

そこにはGHQソ連の陰が見え隠れするはずだが、それはまた。

革新幻想の戦後史

革新幻想の戦後史

 

 

清水潔『殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』

あの桶川ストーカー事件の記者が今度は栃木〜群馬にまたがる幼女殺人事件を同じ犯人による連続殺人と推察し、既に逮捕されていた容疑者のDNA再鑑定による冤罪を導き出し、ついには「真犯人」を特定している。

しかし未だその人物は平然と社会で生活を続けており、この本の最後はその人物へ向けての「いいか、逃げ切れるなどと思うなよ」との著者の言葉で締めくくられる。

DNA鑑定に関する専門的な用語がやや難解な部分もあるが、相変わらず文章が巧いので一気に読むことが出来る。

物凄いジャーナリスト魂。

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

 

 

新潮45『凶悪―ある死刑囚の告発』

殺人事件で獄中にある死刑囚が更なる殺人事件を雑誌記者に告白。

記者はその告発を元に徹底的に事実を調べあげ、未だシャバで暮らすその主犯格を追い詰め告発していく。

ターゲットの生命を使い錬金術のように金を作る恐ろしい人間がこの世の中にはいるものだ。

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

 

 

清水潔『桶川ストーカー殺人事件―遺言』

未だ記憶に新しいこの事件。

この不条理な犯罪に何故か動こうとしない警察を尻目にいち週刊誌記者が実行犯を探し当て、そこに潜む警察の不手際を暴く。

これぞ真のジャーナリズム。文章が巧いので一気に読んでしまう。

これを読んでいて尼崎の事件との奇妙な共通点に思い当たった。

どちらの首謀者も感情の起伏が激しく執念深く、人の命を奪うことを厭わない手下たちを従え、何故か自分は絶対に警察に捕まらないという自信に溢れ(実際この事件は最後まで「捕まらなかった」)最後は謎の死で全ての真相が闇に葬られる。

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)

桶川ストーカー殺人事件―遺言 (新潮文庫)