チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

日馬富士引退を受けて、いち相撲ファンの戯言。

横綱日馬富士が、ついに暴行事件の責任を取って引退を表明した。

その小さい身体から繰り出される立ち合いのスピードと技のキレは、長く相撲を観ている自分が見た中でも、あの千代の富士朝青龍に匹敵する類まれなるもので、現役では最も好きな力士の一人だった。
それだけに今回の事態は誠に残念で仕方ない。


ここで、長年相撲を観てきたいち相撲ファンとしての私見を述べたい。

まず、今回の事件の一報を聞いて思ったのは、え、あの日馬富士が?という驚き。
日馬富士といえば、小さい身体で人並み外れた稽古と努力に努力を重ね、相撲も小さい身体で常に真っ向勝負で、いつも口にするのは「ファンに喜んでもらえる相撲」という言葉。
同じモンゴル出身横綱で土俵上での問題が多かった朝青龍白鵬とは違い、土俵上での態度も立派だったし(一時期ダメ押しすることもあったが、注意を受けてそれからはしっかり改めた)、土俵を下りても社会貢献を積極的にし、絵を描かせればプロ級の腕前。
そんな品行方正を絵に描いたようなイメージだっただけに、今回の事件は「本当にあの日馬富士が?」という俄に信じがたい思いだった。
もちろん「実はああ見えて裏では粗暴な人物でしたよ」と言われてしまえば、「そうですか…」と自分の不明を恥じるしかないのだが。

言い方を変えれば、あの日馬富士がそこまでするのには余程のことがあったのではないか、という疑問。これはおそらくほとんどの相撲ファンが抱いたであろう気持ちで、今回日馬富士に対して、ファンからも協会からもやや擁護的な見方があるのはこうした思いからだろう。

もちろん暴力行為があったことは本人も認めていることであり、これに関しては全く擁護の余地はなく、相応の責任を負わなければならない。
しかし今回の件で巷間伝えられるような「スマホがどうこう」という理由だけであれほどの暴力行為に至るというのはどうしても考えにくく、裏に秘められた闇の部分があるのではないか、という思いが拭い去れない。
関係者も全てを正直に語っているようには思えない。

しかしそれにしても、今回の大騒動でTVやネットで普段相撲なんか観ないような人々が寄ってたかって「日馬富士許せない!けしからん!辞めて当然!」と脊髄反射的に口々に罵るのが腹立たしいし忍びない。
もちろん暴力が許されないのは当然であり揺らぐことのない「ど正論」だ。

しかしそんな誰も反論できない正論を振りかざす貴方は日馬富士の何を知るのか?

日馬富士の相撲を見たことがあってそれを言ってるのか?

…という何とも言えず忍びない思いを抱いてしまうのが相撲ファンなのだ。

日馬富士で個人的に最も思い出すのは、彼がまだ安馬という四股名でやっと新入幕したくらいの頃だったか、国技館の出口でファンに囲まれサインや握手に丁寧に応じていた時、そこにまだ小学校に入るか入らないかくらいの女の子がやってきて、「あま〜!おおきくなってね!」と声をかけると、彼はその女の子の目を見て笑顔で大きくうなずいた姿が忘れられない。
その頃からファンを大事にする安馬日馬富士)にも感心したが、同時にその年で安馬が小さい身体で頑張っていることを知っている女の子の方も相当な相撲通だな!と驚いた。10年以上前の話なので、今頃は立派な「スー女」になっていることだろう。

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さて、日馬富士の引退は非常に残念だが、この騒動はこれで終わるとは到底思えない様相を見せている。
最も心配なのは、これから相撲協会がどうなるか。現状は全く混沌としている。
そもそも、美しい伝統を誇る相撲協会だが、同時に現代にはそぐわない部分も多くあり、しばしばそれが問題化する。
早急な改革が望まれるが、長い歴史を持つものでもあり、中々一気に変えるのには困難が伴う。

それをやってくれそうと思っていたのが貴乃花であり、期待もしていたのだが、今回の行動はいささか腑に落ちない。
彼の相撲に対する真っ直ぐな気持ちはとてもよく解るし、応援したいのだが、今回のやり方では中に敵を多く作ってしまい、今後は孤立を深める一方で、ここまでこじれてしまうと中からの改革も非常に困難になってしまうだろう。もう少し上手いやり方はなかったものか。

それにしてもモンゴル勢と貴乃花親方との確執はかなり根深いようだ。
これが解消される日は果たして来るのだろうか?
その道のりはかなり険しい気がして仕方ない。

一方、九州場所での白鵬の立ち合い待ったのセルフ物言いや、千秋楽での万歳三唱強要は見ていて非常に不愉快だった。
彼の並外れた体力的な強さとそれを長い間維持する努力、そして勝負に勝つための技術の鍛錬は本当に立派なもので、それは全く否定するものではない。
しかし立ち合いでの張り差し、張り手に見せかけた目潰し、執拗に顔面を破壊すること狙った肘打ち、そして勝負が決まった後に相手を土俵下に叩き落とすダメ押しは本当に見ていて見苦しいもので、自分も今までそれでも我慢していたが、今回の件で更に輪をかけて心底ガッカリした。

モンゴル出身横綱としての批判を一身に受けてくれた朝青龍が引退し、彼が唯一師と仰いだ大鵬が亡くなり、彼を諌めることが出来たであろう北の湖千代の富士も立て続けて亡くなり、今やもう彼に物申せる人がいなくなったのではないだろうか。

この白鵬の一連の行動を含めた今回の騒動で、40年近くの長きに渡って毎場所見てきた相撲だが、来場所からは観るのを止めてしまおうかとすら考えてしまっている自分がいる。その他力士たちの頑張る姿は本当に素晴らしく、非常に忍びないのだが…。
大の相撲ファンである自分ですらこうなのだから、せっかく盛り上がっていた現在の相撲ブームがこれで一気にしぼんでしまう可能性も大いに考えられる。

まだ全てが明らかになっているわけではないので何とも言えないが、これからの大相撲界がどうなってしまうのか、非常に危機的な状況にあることは間違いない。

深刻な危惧を抱えながらも、これからの動きに注目していきたい。