チェリーの音楽幕府

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今更ながらの後追いで聴くユーミンアルバムレビューーその6ー(1989-1992)

時代はついにバブルに突入し、ユーミンのアルバムもシンクラヴィアを導入したド派手なデジタルサウンドや歌詞の内容などにその影響が色濃く現れるようになってきた。

 80年代前半はクオリティの高いアルバムを連発していたが、前作でその勢いが突然失速したことで一抹の不安を抱えながらも、そんなことにはお構いなくアルバム売り上げはうなぎのぼりに異次元のレベルで上昇して、いよいよバブル絶頂期へ。

 

21. LOVE WARS('89)松任谷由実

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バブル絶頂の年にリリースされたこのアルバムは、ジャケットもサウンドもまさに絵に描いたようなバブリー!

相変わらずドッシャンバッシャンキラキラとド派手で本当にやかましいバブリーサウンドで、楽曲はアレレ?だった前作と比べたらやや持ち直しているが、曲によって大きな出来のムラを感じる。

いい曲もあるのだが、全体を通して歌詞もサウンドも聴いていてまるで何かに急き立てられているかのようで、聴き終わるとぐったり疲れる。

まさに色々な意味でバブルという時代を象徴するアルバムと言えるのかもしれない。

ユーミン独特の、本人の多重録音による動きのない機械的でグシャッと密集したクローズドなハーモニーのコーラスはこの辺から始まるのかな?
これは気持ちよくて好き。

★6

 

【この1曲】

『Valentine's RADIO』

このアルバムの代表曲といえば『ANNIVERSARY』なんだと思うが、個人的にあまり好きではないので、めっちゃお洒落な『Uptownは灯ともし頃』と悩みつつもアルバムトップを飾るこちら。

ユーミンお得意のアルバム1曲目冒頭のワクワクするようなお洒落で軽やかなソプラノサックスのイントロから、巧みに転調をからめることで、A〜Fくらいまで構成がたくさんあるように感じる曲。

ほとんどのフレーズが「・タラララ〜・タラララ〜」という全く同じリズムで構成されているのにそう感じさせないという非常によく考えられた曲。

 

 

22. 天国のドア('90)松任谷由実

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一曲目はまるでプリンスかと思った。
まあまさしくそんな時代だね。

とにかくバカ売れしたようで、史上初めて200万枚を突破したお化けアルバムとして記録されているようだが、正直言ってユーミンのこの数年前、80年代前半の一連のアルバムと比較すると出来は格段に落ちる。
時代の勢いというのは恐ろしいものだ。

自分がこれまでユーミンにあまりいい印象を持っていなかったのは、もしかするとこの時期にラジオなどでさんざん流れていたのを嫌でも耳にしていたから、というのもあるのかもしれない。

★6

 

【この1曲】

『時はかげろう』

カルロス・トシキ&オメガトライブに提供した曲のセルフカヴァー。
オメガトライブバージョンも好きだったが、ユーミンバージョンもなかなか。

オメガトライブバージョンとキーが半音しか違わず、おまけに後半転調しているので、オメガトライブバージョンを聴いた直後にユーミンバージョンを聴くと同じキーに聴こえる。
超美メロ曲。
 

 

 23. DAWN PURPLE('91)松任谷由実

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4作続いたドッシャンバッシャンキラキラのいわゆるバブリーサウンドが、ここでようやく落ち着きを取り戻してくれた。
バブルの狂騒がようやくここに終焉したか。

そして久しぶりに冒頭から畳み掛けるように4曲も良曲が続く。
これは今後に向けていい兆しと願いたい。

しかしその後は相変わらず曲ごとの出来のムラが大きい。
間に合わせで作ってしまった(実際はそんなことないんだろうけど)ような、首を傾げたくなるような曲も入っている。

 ハウスやワールドミュージックの影響が見て取れる。

★7

 

【この1曲】

『情熱に届かない〜Don't Let Me Go』

サビのメロディは今までのユーミンにはあまりなかったタイプで、とても力強くてグッとくる、ユーミンの新境地。
ティアーズ・フォー・フィアーズへのオマージュがあからさますぎるが(^_^;)久しぶりに「ユーミンの名曲!」と呼べる曲かも。
 

 

24. TEARS AND REASONS('92)松任谷由実

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落ち着きを取り戻したかに見えた前作とは打って変わって、冒頭2曲がまた派手派手に戻ってしまって一瞬どうかと思ったが、その後はユーミンらしいミディアムな佳曲が多い。

バブルの時期を乗り越えてかつてのようなお洒落で落ち着いた作風が戻ってきたのは嬉しい。

『So High』では『青春のリグレット』で見せてくれたようなクロマチックな和音上昇が再び現れてニヤリとさせてくれる。

ただここ近作で、これまで一心同体で寄り添ってきたユーミンの曲と松任谷正隆氏のアレンジの齟齬を感じるようになってしまった。
「え、この曲でそのアレンジ?」というちぐはぐさが随所で浮き彫りになっている気がする。
たとえば『ミラクル』などは、曲自体もとてもいい曲だし、ベーシックなアレンジもお洒落で心地いいのに、無粋なオーケストラヒットがぶち壊している。
しかも92年といえば自分の記憶ではオーケストラヒットはもう既にかなり古臭いものになっていたはずなのだが…。

ユーミンのアルバムはそれぞれその時代の流行りものを取り入れているのが特徴だけど、このアルバムにもマイケル・ジャクソンかよ!?というアレンジも。

そしてハウスミュージックへの傾倒は更に深まっている。

★7

 

【この1曲】

『瞳はどしゃ降り』

このアルバムで一番の有名曲はトップの『無限の中の一度』かな。
ただ楽曲自体はサビがキャッチーでとても素晴らしい曲なんだけど、ハウスっぽいアレンジが地に足がついていないような感じがしてあまり好きではないので、このアルバムで数曲見られるかつての曲調に回帰した中のこの一曲。

歌い出しがいきなりⅡm7/Ⅴから始まるのも驚きだが、そのまま解決しないでどんどん展開していく所がいかにもユーミンらしい。

フリューゲルホルンとスライドギターがうっとりするほど気持ちいい。

 

 

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