チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

今更ながらの後追いで聴くユーミンアルバムレビューーその8ー(1997-2002)

90年代に入り、『真夏の夜の夢』『Hello,my friend』『春よ、来い』と続けざまに大ヒットを飛ばしたあと、そう言えば自分の記憶ではパッタリとユーミンの曲の印象は残っていない。

実際、当時はドリカムなど若手の台頭があり、一気に世代交代の波が押し寄せたようで、ユーミンの売り上げも急激に降下してしまったようだ。

確かに前2作はやや低迷感を感じるものがあった。

当然危機意識は持っていたと思われるが、その意欲が空回りしてしまっている感じ。

ユーミンはこのまま過去の人となり、終わってしまうのか?と、当時の多くの人は考えたかもしれない。

29. スユアの波('97)松任谷由実

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ところがどっこい、ユーミンは終わってなんぞいなかった。 

一曲目の『セイレーン』の軽快なリズムの爽やかなギターサウンドから、ユーミン流スペクターサウンドの『Sunny day Holiday』、グッとくる泣きのメロディーの『夢の中で~We are not alone,forever』、極めつけの名曲『きみなき世界』、Beach Boys風(実際歌詞に「Good Vibration」が出てくる)の『パーティーへ行こう』の前半5曲の流れは非常に心躍らされる。

時をかける少女』の歌詞はそのままでメロディをまるっと付け替えた『時のカンツォーネ』も、メロディなんていくらでも生み出せるのよ!と言っているようで面白い。

いや〜このアルバムいいねぇ。
堂々たる楽曲と生楽器主体のふくよかなサウンドは自信と風格を感じさせる。

ただ前半の充実度に比べて後半がやや弱いかな…。

★8

 

【この1曲】

きみなき世界

Stingの『Englishman in New York』を彷彿とさせるレゲエのリズムで歌われる悲しい歌。

淡々と刻まれるオルガンのリズムに、ストリングスとガットギターが更に物哀しさを強調する。

 

 

30. FROZEN ROSES('99)松任谷由実

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更に好調は続き、このアルバムも良曲がずらりと並んでいる。
特にアレンジ面ではラップあり、ギターポップあり、高速ビートを刻むボサノヴァあり、インドあり、ジャズあり、レゲエありと、非常にバラエティに富んでいて攻めている感じ。 
特にストリングスのスリリングな使い方が際立っている。
かといって尖っているわけではなく、全体のサウンド的には円熟した優しさに包まれている。

この頃になるとユーミンも、以前のように売り上げを気にせず、やりたいことをやっている感じで非常に好ましい。

このアルバムも大好き。

ただ声の変化(「劣化」とは言いたくない)は更に進行し、その少しディストーションのかかったような声は一種独特の凄みと迫力を増している。
…と好意的に受け取ってしまうのはもしかすると俺も「ファンの贔屓目」に陥っている可能性もあるのかな?(^o^;)

★10

 

【この1曲】

『Rāga#3』

バラエティに富んだ良曲揃いの中でも極めつけはこの曲。
以前からか少しずつ見え隠れしていたユーミンのインド趣味がここで爆発。

電子音とブレイクビーツと歪んだギターと加工された呪術師のような声が、得も言われぬカオスな世界を生み出していて、何度も聴きたくなるほど味わい深い。

サビでおもむろに出てくるおおたか静流のコーラスがまたいい。

これはこの時期でないと生み出せなかった世界だろう。
ユーミンはまた新たな音楽の世界に足を踏み入れた。

 

 31. acacia('01)松任谷由実

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 2000年代に入っても好調は続き、ついには収録曲も一気に増えて14曲入りの意欲作。
創作意欲の高まりと絶好調さがうかがえる。

『TWINS』はAABAという構成で、同じフレーズを執拗に繰り返すがそれが非常に印象的でクセになるのが、かつての『20minutes』を彷彿とさせてとても大好き。

荒井由実が現代に蘇ったような『Lundi』もとてもよい。

どれもかなりの名曲揃いで、14曲あっても全く長く感じない。

ここにまたユーミンの堂々たる名盤が生まれたと言っていい。

2000年代のユーミンもまだまだ大丈夫!

★9

 

【この1曲】

acacia [アカシア]』

名曲揃いのこのアルバムの中から1曲だけを選ぶのは非常に迷ってしまうが、「ユーミンらしさ」に溢れているのがこの曲。

サビの一発目のコードが Ⅴm7/Ⅰ というところが実にユーミンらしく、一瞬にして彼女の世界が眼前に広がる。


32.Wings of Winter, Shades of Summer('02)松任谷由実

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1980年の『SURF&SNOW』VOL.2と銘打たれたアルバム。

たしかに夏の海と冬の雪をテーマにした曲が並んでいるが、そこにはあの頃のような多幸感に溢れた浮かれた能天気さは一切なく、喪失感や過去を振り返るしみじみとした感情が歌われていて、そこに22年の年月の経過がかなり強いコントラストで表現されていて実に味わい深い。

サウンドも堂々とした落ち着いた風格が漂っておりとても心地良く、それぞれいい曲だが、全体を通したイメージはやや地味で、曲数も7曲と少ないこともあり、前作のような圧倒的な満足感には及ばない。

★8

 

【この1曲】

『雪月花』

ユーミンのソングライターとしてのテクニックをこれでもかと詰め込んだ素晴らしいメロディーで、歌詞はいつになく情緒的で、歌も珍しく感情を込めて歌いこんでいる。

歌声も安定していて、この年齢なりの表現の仕方をしっかりと体得した感じで、余裕すら感じる。

 

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