チェリーの音楽幕府

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大貫妙子アルバムレビュー 〜その2〜 (1980〜82)

78年の『MIGNONNE』発表後、2年間の空白期を経た大貫妙子は、それまでのイメージからガラリと変貌して復活した。
ヨーロッパをテーマにした彼女の音楽性はその後そのまま彼女のイメージそのものとなり、ここから彼女の快進撃が始まる。

自分が彼女の音楽に初めて触れたのはこの時期。
81年頃、maxellのTVCMで吉田美奈子とラジの3人と競合して流れていたが、その中で一番印象に残ったのが大貫妙子の『黒のクレール』だった。
調べてみたらなんとアレンジは当時YMOで一世を風靡していた坂本龍一ではないか!
その後ほどなくしてリリースされたこの曲が収録されたニューアルバム『Cliché』を聴いて完全にハマった。
そこから過去作を遡り、今回ご紹介する3枚はそれこそテープが伸びるほど何百回聴いたかわからない、最も自分にとって馴染みの深い「ヨーロッパ3部作」と呼ばれる3作。

 

4ROMANTIQUE('80)

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 前作『MIGNONNE』が、プロデューサーの言われた通りに作ったのに全く売れなかったことにショックを受けて、2年間の空白期に入る。

そんな彼女を見かねた牧村憲一氏のアドバイスにより、それまでのジョニ・ミッチェルフュージョンクロスオーヴァーサウンドアメリカから、シャンソンやフレンチポップのヨーロッパへ志向を変えたことで、彼女は華麗に復活を遂げる。
以降「大貫妙子=ヨーロッパ」というイメージの図式を確立し、以降も歌い継がれる永遠の名曲が多く誕生することになる。

ちなみにユーミンも全く同じ時期に、ヨーロッパ的架空の世界をイメージした『時のないホテル』を発表しており、ヨーロッパというのはこの当時のトレンドだったのかもしれない。

2年間の空白を経て満を持して発表されたこのアルバムのアレンジは、坂本龍一加藤和彦の半々。
演奏は坂本アレンジはYMO、加藤アレンジは清水信之ムーンライダーズなど。
当時既にヨーロッパ志向のアルバムを発表していた加藤和彦にとってこのサウンドはお手の物だし、デビュー当時からアレンジに携わっていた盟友坂本龍一は、この2年間の休養の間にYMOの成功でまたたく間に一気にスターダムにのし上がっていた。

その坂本龍一の当時の飛ぶ鳥を落とす勢いを感じるのが、このアルバムのオープニングを飾る『Carnaval』。
これまでの彼女のイメージからガラリと変わってシンセをバリバリフィーチャーしたYMOサウンドに以前からのファンはさぞかし驚いたことだろう。
今聴くとオーバーアレンジ気味でさすがにやりすぎだとは思うがインパクトは抜群で、この曲の印象で当時音楽界を席巻していたいわゆるYMOファミリーの一員として彼女は扱われるようになり知名度が一気に上がった。自分もそのラインで知ることになる。

しかし坂本龍一のこのコケオドシ的アレンジはこの曲だけで、これ以外は堅実なオーソドックなアレンジでヨーロッパの世界を構築する。

彼女の楽曲に関しても、ヨーロッパ的抑揚と陰影のあるメロディアスな技法を手に入れたことで更にクオリティが上がり、名曲ばかり。
★10 

【この1曲】

『若き日の望楼』

パリの若き芸術家たちの生活を描いたこの曲は、名曲揃いのこのアルバムの中でも特に切なく感動的。自分はこの曲を聴くたびに一体何度泣かされたことか。
その後も何度もセルフカヴァーされることになる名曲中の名曲。

 

 

5. AVENTURE('81)

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前作でヨーロッパ的世界を確立した彼女、今作もその流れを汲み、やや陰鬱な雰囲気もあった前作よりポップできらめく雰囲気。
大雑把なイメージで言うと、舞台が東欧から地中海に移った感じとでも言おうか。

1曲目を飾るのも前作と打って変わってどポップな売れ線メロディの『恋人達の明日』。
実際当時のアイドル白石まるみがこの曲をカヴァーした。

楽曲とアレンジのクオリティーも更に上がり、充実しきった名曲ばかり。
今回のアレンジは前作に続き坂本龍一加藤和彦に加えて、前田憲男大村憲司といった豪華な面々。
前田憲男アレンジの『グランプリ』は当時はあまり好きではなかったが、今聴くととてもカッコいいなぁ。
★10 

【この1曲】

『テルミネ』

佳曲が多いので迷ってしまうが、中でも比較的地味なこの曲。
聴く者の予想をどんどん裏切って展開していく器楽的メロディーが素晴らしい。

 

 

6. Cliché('82)

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 いわゆる「ヨーロッパ三部作」と呼ばれる三作目。
ここでついに本場フランスのアレンジャーとオーケストラを起用してフランス録音することで大貫妙子流ヨーロピアサウンドが完結する。

個人的には自分が初めて彼女の音楽に触れた作品であり、毎日毎日何度も何度も繰り返し最も聴いたアルバムで、あまりに思い入れが大きく聴き過ぎでちょっと飽きが来たので、その後は関心が他のアルバムに向き、正直その後はあまり聴くことなく忘れ去ってしまっていた。

しかし今回改めて久しぶりに聴いてみると、やはりなんと素晴らしいアルバムだろう!
楽曲のクオリティも全て粒揃いで飛び抜けて高いし、坂本龍一アレンジの東京録音も、Jean Musyアレンジのフランス録音もどちらも本当に素晴らしい最高のアルバムだった。

やはり当時自分が初めて触れて一発で夢中になってしまったのも当然の傑作だと、改めて思った。

ただ唯一『Labyrinth』だけは当時も今もやはり好きになれない…。
ボーカルにかかっているエコーも気持ち悪いし、そもそも何でベースが入ってないの〜教授〜!?
★10

【この1曲】

『憶ひ出』

本当に優れた楽曲ばかりだが、敢えてやや地味なフランス録音のこの曲。
当時はメロドラマみたいな大袈裟なイントロだな〜と思っていたが、いやいやこれでこそドラマチックでいいではないか!

そしてその大袈裟なイントロから歌が入った瞬間の転調は、さながらオフコースの『Yes-No』のような不意打ちの気持ちよさで、何度聴いても新鮮。

 

 

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