チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

坂本龍一『Smoochy』(1995)

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『Smoochy』は1995年発売の坂本龍一12枚目のソロアルバム。
当時の教授はマーケットを意識していたようで、前作『Sweet Revenge』に引き続き今作も「売れ線」狙いで、他のアルバムで見られる先鋭さや難解さは影を潜めた、彼の全キャリアの中でも最も美メロ・美コードに全編満ち溢れた坂本流AOR

のちのライブでの定番曲となる『美貌の青空』や『TANGO』に代表されるように、スタンダードと言うべき名曲揃いでどれも本当に美しい曲ばかり。

リリース当時のマーケットを意識した売れ線路線といえば、70年代の名盤『Summer Nerves』(坂本龍一&カクトウギ・セッション名義)に近い肌触りで、サウンドはとても耳に心地よい。

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しかしこの『Smoochy』の最大の失敗は、教授本人がボーカルを取ってしまったこと。
まあ今更言うまでもないことだが、天は二物を与えずというが、これほどの才能を持ちながら彼のボーカル力はお世辞にも優れているとは言えず、折角の美しい曲が台無しとまでは言わないが、魅力が半減してしまったと言わざるを得ない。

もしこのアルバムが『未来派野郎』の時のバーナード・ファウラーや前作でデュエットした今井美樹のように、しっかりしたボーカリストを起用していたとしたら、『B-2 UNIT』や『音楽図鑑』に匹敵する彼の代表作になっていたのではないだろうか。

盟友高橋幸宏が自身の過去の名盤『Saravah!』のボーカルを録り直して蘇らせたように、今からでも他の人でボーカルを録り直してくれないかと思ってしまうが、それも無理な相談か。

しかしやはり本当にいい曲揃いなので、自分にとっての愛聴盤であることには変わりない。
今後も聴き続けていくと思う。