チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

『澪つくし』(1985)

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朝ドラアンコール『澪つくし』の再放送が終わった。
本放送当時かなり話題になっていたので何度か観たような気はするが、ストーリーなどはすっかり忘れてしまっていたので、新鮮な気持ちで楽しむことができた。

このドラマの前半は、銚子の老舗醤油屋の妾の子かをると網元の漁師の惣吉が、数々の試練を乗り越えて結ばれる純愛物語。
とにかくこの二人の瑞々しい魅力があまりにも鮮烈で、観ているだけで胸がときめき、キュンキュンが満載。

そこに脚本ジェームス三木による格調高い文学的なナレーションや、味わい深いセリフの連続で、毎回画面に釘付けになってしまった。

中盤以降は突然の惣吉との別れ、野心家番頭梅木との再婚、そしてあっと驚く惣吉の帰還、かをるをめぐる惣吉と梅木との3角関係と、朝ドラ要素だけに飽き足らずのちの昼ドラ要素までも加わる大激動が矢継ぎ早に起き、1日たりとも目が離せない展開が続いた。
さすが大家ジェームス三木の面目躍如だろう。

終盤は激動の渦に生きながらも幸せだったかをるに戦争の運命が襲いかかり、不幸のどん底に叩き落とされる。
かつてこれほど主要人物が戦争で死んだ朝ドラはあっただろうか?

戦争が終わり、そんな不幸から立ち直ろうとするかをると惣吉。
その二人のその後の運命は観るものそれぞれの想像に委ねるラストシーンも、このドラマの余韻をしみじみと味わうことができてとても素晴らしかった。

ジェームス三木の脚本がとにかく素晴らしかったが、それに加えて役者陣の演技がみんなとても魅力的だった。

何といってもヒロインかをる役沢口靖子の誰もが息を飲む可憐さと、竹を割ったような男らしい惣吉役川野太郎の若い二人の魅力が鮮烈な記憶を残してくれた。
惣吉のカッコよさは男でも惚れた。
さぞかし当時の奥様方の涙を振り絞ったことだろう。
結果的に惣吉は一途な初恋を貫き、かをるは家族への愛を貫いたというその対比も見事だった。

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そんな若い二人を取り囲む津川雅彦加賀まりこ鷲尾真知子草笛光子柴田恭兵根岸季衣高品格など、それぞれが本当に印象に残る演技を見せて非常に見応えがあった。

そして何といっても忘れられないのが、かをるの姉律子を演じた桜田淳子
この人はこんなに上手い役者だったのか。
素直になれず本心を伝えることが下手で「新しい女」を強がる、どこか寂しき役どころを見事に演じ切っていた。
この人がその後芸能界を去ることがなければ今頃は沢口靖子と並んで大女優として君臨していたのではないだろうか。
そう思うと残念でならない。

これほどまでに自分の心に深い感動を残したこのドラマ、去年再放送していた『おしん』といい、今この時代に36年前の朝ドラにこんなに感動させられるとは思いもしなかった。

自分にとって『おしん』『てるてる家族』『カーネーション』『あまちゃん』に並ぶ朝ドラの名作となった。

さて『澪つくし』の次の朝ドラアンコールは『あぐり』。
これは本放送当時かなりハマって毎日観ていた。
今観るとどう思うか、それもまた楽しみだ。