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政治家の評価

安倍総理が辞意を表明した。

病を抱えながら長期に渡る政権運営にのしかかる責任と重圧は如何ほどのものだったか、想像するに余りある。
まずは一国民として「お疲れさまでした」と言いたい。

政治の評価は、どの点に重きを置くかで人それぞれ変わってくるものだと思うが、個人的には特に外交と安全保障と経済面において安倍政権を高く評価している。
もちろんその中でも細かい点を挙げれば気に入らない所も多々あるが、大局で見れば他のどの政権もできなかった大きな仕事を沢山成し遂げたと思う。

政治家の評価というものは数十年の時間を経てようやく定まるもので、例えば今では戦後の名宰相との評価がほぼ確定している吉田茂でさえも、在任当時は特に末期においては国民的批判を浴びて這々の体で政権を追いやられた。

国を揺るがす大きな反対運動が起き、当時の岸首相を退陣に追い込んだ新日米安全保障条約も、戦後日本の平和と発展においてその果たした大きな役割を否定する者は今の時代では誰一人としていないであろう。

一方、例えば近衛文麿は当時とても国民的人気があったようだが、政権内部にスパイを入り込ませ判断を誤り、日本を米国との戦争に向かわせる大きな一因となってしまった。
それと在任当時はとても人気のあった小泉純一郎氏は、現時点では歴史的に何を成したかあまり思い浮かばない。唯一のスローガンだった郵政民営化は、まだまだ後の世の評価を待つしか無い。
就任時、驚異的な高支持率を叩き出した細川護熙氏、鳩山由紀夫氏に至っては言わずもがな。

このように、総理大臣在任当時の社会的評価と、後世になって定まる歴史的評価は必ずしも一致するものではない。

例に挙げた吉田茂岸信介のように、後の日本にとって必要な大局を持った政策を、一時の国民の評判に左右されることなく信念を持って推し進めることのできる政治家こそが真の政治家と言える気がするが、いかがだろうか。

さてそこで安倍内閣はどうであったか。
特定秘密保護法や平和安全法制、そして2度に渡る消費税増税など、一時的に一部の国民の大きな反発を受けたにも関わらずすぐに支持率が回復し、長期に渡って安定的な高支持率を維持し続けたこの政権は、そのどちらにも当てはまる稀有なものではないだろうか。

第一次政権発足当初からずっと、ごく一部のメディアや「知識人」、おそらく60年安保世代の中に、安倍総理岸信介の孫だからという理由で「戦争したい人」みたいな時代遅れの価値観の理不尽なレッテルを貼り、何をするにもひたすら執拗に叩き続けたアンチ層がいたのは気の毒だった。人を出自で判断してはいけない。

しかし一方、常に叩く材料を探して、時には理不尽だったりピント外れの批判を繰り返し煽り続けたオールドメディアのマスコミに惑わされることなく支持し続けた人が多かったということは、新しい時代の日本国民の成熟度を現しているとも言える。

一つ一つの政策の評価は後の世に任せるほかないが、現時点では憲政史上最長の政権を高いレベルの支持率で維持し続けたという事実一つだけでも歴史的名宰相であると言っていい。

さてそんな安倍政権だったが、個人的に残念だったことも沢山ある。
その最大のものは何と言っても憲法改正を成し遂げられなかったこと。
これは総理ご本人にとっても生涯悔やまれる痛恨事だったであろう。
今後これほどの確固たる信念と実行力を備えた総理が現れるだろうか?
返す返すも残念でならない。

その他にも、拉致問題の解決、北方領土問題など、政治家安倍晋三にとっての最重要課題が解決されなかったことは惜しまれる。

個人的に残念だったのは、終始周囲の意見に耳を傾け安全運転に徹しすぎた感がある所。
せっかく高い支持率で長期政権を担っているのだから、自分の信念に基づく部分ではもっと強引に周囲を引っ張るところがあっても良かった気がする。

あとは、国会などでついつい野党の挑発に乗っかってしまう所も残念だった。
たとえば森友問題での「私や妻が関係していたということになれば、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめる」という発言。あれはよろしくなかった。
理不尽な攻撃に反論したい気持は痛いほどわかるが、そこは大宰相らしく泰然と対応してほしかった。
まあその辺も彼の人間らしい一面であると言えるのだが。

さて、長きにわたる長期政権を担い続けた安倍総理だが、今後はどうなるのだろう?
まずは激務から離れてゆっくり時間をかけて療養して病を癒していただきたい。
病が癒えた後は後進の指導にあたっていただきたいが、とはいえまだまだ政治家としては若い。
現役の政治家として、例えば麻生氏のように外務大臣などで長期政権の経験を活かした得意分野の外交で手腕を発揮してほしい。それを歓迎する国も多いだろう。
それどころか完全に病が癒えたらまた総理大臣再々登板というのも勝手ながら期待したい。
その節にはいよいよ悲願の憲法改正を成し遂げていただきたいものだが、まだまだそれは私の勝手な夢想の域を出ない。

今の政治家を見渡してみても、安倍総理ほどの信念を持った政治家は残念ながら見当たらない。
これからの日本政治に、安倍晋三のような確固たる強い信念を持った政治家が現れることを期待したい。