チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

5月に読んだ本

狐笛のかなた上橋 菜穂子
サウスバウンド奥田 英朗
昭和30年代モダン観光旅行長澤 均
団地の子どもたち 今蘇る、昭和30・40年代の記憶照井 啓太

音楽は自由にする坂本龍一

邪魔奥田 英朗

狐笛のかなた狐笛のかなた
(2003/11)
上橋 菜穂子

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数ヶ月掛りで集中して読み進めてきた上橋菜穂子氏の著作も、そろそろ全制覇が近づいてきた。

これは比較的最近のお話。

なので文章はすっかりこなれていて、さすが、の安定感。

無国籍な世界が多い氏の物語だが、この作品はまぎれもなく太古の日本。

登場人物の名前も全て日本名だ。

亡き母から「聞き耳」という能力を受け継いだ少女が、この世と神の世の境に生まれた霊狐とよばれる子狐を救ったことから始まる魂のふれあい。

しかしその霊狐は、人間に操られ、政治の道具として使われる生まれながらの運命であった。

徐々に明かされていく少女の生誕の秘密と、やはり同じ時に出会った封印されていた少年小春丸の運命が絡み合う。

日本的情緒に溢れた情景が目に浮かぶ、とても美しい物語だ。

★★★★★

サウス・バウンドサウス・バウンド
(2005/06/30)
奥田 英朗

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数年前に読んだ「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」が面白かった著者の2005年出版の本。

これがとてつもなく面白かった。

主人公は、元過激派活動家の父と母を持つ小学六年生の少年。

この元過激派の父の破天荒なキャラクターがもの凄い。

そのキャラのハチャメチャさは「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」の主人公伊良部を超えている。

物語は前半と後半とに大きく分かれている。

前半は東京、主に中野ブロードウェイ周辺が舞台。

主人公の少年の子供ならではの人間関係、不良少年からのかつあげや暴力等のエピソードは読むのが辛くなってしまう部分もあるが、その分大きなカタルシスが待っている。

そして後半は、舞台を一気に西表島に移し、物語が大きく展開していく。

特にこの後半の疾走感と爽快感は一体何だ!?

寝るのも忘れて一気に読み切ってしまった。

主人公の少年の目を通して、西表島という全く知らない新たな世界で起きる出来事の数々、一体次に何か起きるのか、ワクワクドキドキ胸を躍らせた。

こんなのは久しぶりだ!!!!!

これは冒険活劇だ。子供の頃に夢中になって読んだ冒険小説を思い出した。

そして前編と後編とで、この破天荒な父親に対する主人公の少年の評価が一変する所が非常に面白い。

読後感も非常に爽快で、いつかまた読み直してみたいと思った。

そして続編も是非期待してしまう。

とにかく本当に面白かった。キョーレツに超!超!超!おススメです。

★★★★★

昭和30年代モダン観光旅行昭和30年代モダン観光旅行
(2009/02/26)
長澤 均

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この本は素晴らしい!!!

主に昭和30年代の観光地の絵はがきを集めた本。

今ではどこもすっかりくたびれてしまった観光地。

逆にその絶妙のくたびれ感が何とも言えないいい味を醸し出しているのだが、この本ではその観光地が最も元気で最先端だった頃の勢いが一杯つまっている。

極彩色に着色された写真がまたいかがわしさを強調しているのだが、その有無を言わせぬ説得力は高度経済成長期そのもの。

この本に登場する観光地全てに行ってみたくなる。

それにしてもロープウェーってのは夢のある乗り物だな~。

ここ最近で色々な所が廃止になっているらしいのは寂しい限り。

★★★★★

団地の子どもたち 今蘇る、昭和30・40年代の記憶団地の子どもたち 今蘇る、昭和30・40年代の記憶
(2009/04/16)
照井 啓太

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これは・・・たまらない。

最近数多く出版されている団地本。

この本はそんな中でも、団地そのものではなく、団地で暮らし,遊ぶ子供たちをメインにした写真集。

この写真の中には、姉が,兄が、そして俺がいる。

そして今の自分よりも若い父と母。

俺にとっての原風景そのままの写真の数々。

涙が止まらない。

団地といえば今は高齢者ばかりになってしまったが、この頃は子供たちの輝きに溢れている。

団地が最も幸せに包まれていた時代。

★★★★★

音楽は自由にする音楽は自由にする
(2009/02/26)
坂本龍一

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間違いなく俺がこれまでの人生で最も大きな影響を受けたミュージシャン、坂本龍一氏。

それどころか、十代の頃は音楽、生き方、考え方、その全てにおいて自分の「神」だった。

そんな彼が、自分の人生を振り返る自叙伝のような物。

子供の頃の話や、学生時代、そしてYMOに参加する頃、そしてその後、非常に興味深い話が、意外にも謙虚なスタンスで語られている。

しかし、分量的にやや掘り下げが足りず、この辺をもっと知りたいのに!という欲求不満がやや残った。

大きな流れはわかったので、あとはファンとしてはこれまで残してきた各作品のそれぞれのエピソードなどが知りたい所。

マイルス・デイビス自叙伝」のようなボリュームでそれが語られる事をいつの日か心から願っています。

★★★★

邪魔邪魔
(2001/04)
奥田 英朗

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イン・ザ・プール」「空中ブランコ」より更に前、2001年出版の小説。

物語はごく平凡な主婦と、最愛の妻を亡くした刑事、ろくでもない不良少年の三人のストーリーが絡み合う。

ある日起きた小さな放火事件で、夫がその犯人なのではという疑いを持った所から生じた運命の歯車のちょっとした狂いが、あっという間に人生を破滅の道へ突き進んで行く大きな狂いになっていく。

ちょっとした小さなきっかけが人の運命を大きく変えてしまう恐怖を描いた小説。

のちの彼の小説に見られるコミカルな要素は全くなく、シリアスに進んで行く。

確かに面白かった事は面白かったのだが、あまりに不幸が重なって行くこの類いのお話はあまり得意ではない。

読後感もあまりよろしくないのです。

★★★