チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

真珠夫人

真珠夫人」そう、昼メロである。

そして昼メロの最高傑作であり、同時に昼メロという枠を超越した「真珠ワールド」は僕の心を捕らえて放さない。

昼メロにハマったことは今までにもあった。そう、『砂の城』だ。

強引な展開に時代掛かった大仰な演技、随所にちりばめられたツッコミどころで「あはは、んなことあるかい!」と大笑いしながら、ある意味確信犯的な作り手の投じた罠にあえて身を委ねる、という昼メロの正しい楽しみ方を存分に踏まえつつ、主役(森下涼子)がある日突然何の前触れもなく大場久美子(!)に変身してしまうという事実上の最終兵器を投入してしまった伝説の作品だった。

今回もその『予感』があった。虫の知らせというべきか。

砂の城』以来、昼メロからは遠ざかっていたのだが、放送開始前に偶然見た予告の番宣のほんの一瞬で「これはきっと面白いぞ!」と何か確信めいたものを感じた。そのおかげで幸運にも第一回から期待を込めて見ることが出来た。そしてその期待は何十倍何百倍にもなって跳ね返って来ることになる。

まずはそのタイトル。そして原作が菊池寛(読んだことナイケド)という大時代性、これだけで期待はいやがおうにも膨らんだ。そしてこれはあとから知ったのだが、脚本は中島丈博。『砂の城』で自分を骨抜きにしたまさにその人物だった・・・。

しかし幕を開けてみると、そんな能書きは全て吹っ飛ぶ程の前代未聞の『真珠ワールド』が炸裂する。

主役は横山めぐみ。瑠璃子というそのいかにもな名前と旧華族令嬢という設定からして「もうど~にでもして」状態。その他にものっけから個性的過ぎる愛すべき登場人物が次々に現れる。

直也、勝平、種彦、美奈子、むら枝、直輔、はま子、徳光、キク、、、ああ、こうして名前を挙げていくだけでもワクワクしてくるのは何故だ!?

その中に思いがけない顔があった。

増田未亜。10年以上前にずいぶん『お世話になった』グラビアアイドル。当時はほんとに息を飲むくらいのまさに美少女だった。その彼女が10年以上の時を経て『演技派女優』としてブラウン管の中にいた。なにか嬉しかった。個人的にはそんな楽しみも見い出しつつ、ドラマは怒濤のように進行していった。

物語は5月に入り第二部。ここで登美子役の森下涼子の登場によって盛り上がりは頂点に達する。森下涼子、そう、あの『砂の城』の主役、美百合だぁ! そしてまたこの登美子、リリー役でまさしく名実共に『昼メロの女王』の地位を確立した。

登美子登場の回で「想像妊娠」という『砂の城ネタ』をチラリと振るという、マニア心をくすぐるところも脚本家、芸が細かい。

そして第二部は『たわしコロッケ』というドラマ史に残る「伝説」を生み、大きな余韻を残しつつ第三部へと続く。

第三部は、優、頼子という特異キャラが生まれるも、ドラマとしてはこれといった盛り上がりもなく(とはいえ、瑠璃子の「これでもか」よろめきシーン等、見どころは多い)最終回を迎える。

これほどのドラマ、どんな最終回を?と期待半分、不安半分だったので、その時は「え?」を少し物足りなく思ったのだが、あとからゆっくり振り返ってみるとこれ以上ない美しい終わり方だったと思う。

昼メロごときでこんなにアツく語ってしまってちと恥ずかしい気もするが、このドラマが昼メロという枠を遥かに超越した傑作だったことは、放送終了後に次々と証明された。

 脚本家によるノベライズ本の出版、

 絶版となっていた菊池寛の原作を、相次ぐ問い合わせにより新潮・文春二社が競合再版、

 放送終了三ヶ月後に「完結版」として昼メロ史上初のゴールデンタイムにスペシャル番組として進出、

 そして極め付けは前代未聞の全話ビデオ&DVD化だろう。

毎回ビデオに録って見ていたんだけど、最初の数回が残念ながら残っていないのがとても悔やまれてならなかったので、これはとても嬉しい。

スペシャルの「完結版」とはいっても、あの濃厚な世界を2時間でダイジェストできるとはとても思えないので、ゆっくりと全話、ノーカットでもう一度最初から味わいたいと思う。

この上ない喜びになることでしょう。