チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

私を通り過ぎた音たち 『ハナ肇とクレイジー・キャッツ』

クレイジーシングルス クレイジーシングルス
ハナ肇クレイジー・キャッツ (1991/02/27)
東芝EMI
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ずっとここに書きたいと思っていた。

俺がこの世で最も愛する音楽なだけに気合いが入り、かえってなかなか書く機会がなくずるずると先延ばしにしてしまっていたのが、こんなきっかけで書く事になってしまったのが甚だ悲しい。

先日、ある訃報が日本列島を駆け巡った。そしてその翌日のペーカンライブでは急遽予定を変更して「ホンダラ行進曲」で登場した。

植木等

彼の活躍については今さらここに書くまでもない。東京オリンピック、新幹線、大鵬柏戸、長嶋・王、etc・・・その名とともにクレイジーキャッツはまさしく、明るく夢いっぱいに幸せだった60年代高度成長期の日本の象徴だった。

なのでここでは「俺にとっての」クレイジーキャッツについて書こうと思う。

とはいえドリフ世代の俺は、実は「シャボン玉ホリデー」「ゲバゲバ90分!!」もほとんど記憶になく、リアルタイムでのクレイジーキャッツの活躍は知らない。

俺がクレイジーを初めてしっかり聴いたのは、NHK-FMでやってた「坂本龍一サウンドストリート」のゲストに植木等大瀧詠一(今思うとすげえな!)が出演した時。何度も何度も繰り返し聴いたその時のエアチェックのテープは、今でも大事にとってある。

全てが衝撃的だったが、特に青島幸男の歌詞と植木等の歌の表現力の素晴らしさは今さら言うまでもない。しかしそれ以上に俺の耳に衝撃を与えたのは作編曲者の萩原哲晶という人物だった。

いわゆるヨナ抜きと言われるペンタトニックという音階の限られた制約の中で、ありとあらゆるアレンジ上のアイデアを駆使している。不協和音を積極的に取り入れる手法をはじめ、あらゆる種類の効果的なパーカッションなど、その溢れ返らんばかりの息つく間もないアイデアは何度聴いても全く飽きる事がない。中でも秀逸なのは「遺憾に存じます」のイントロでの当時全盛だったビートルズのパロディ。「抱きしめたい」のイントロのアクセントがそのまんまひっくり返って和風頭打ちになってる!!!もう最高です。演奏は寺内タケシとブルージーンズ

見よ!このインチキくさい笑顔!!!

この時のラジオの植木等のコメントで、レコーディングは全て一発録りだったということが明かされてまたまたビックリ。この「なんでもあり」的発想は、おそらくレコーディングの現場でも、色々な人のアイデアをその場でこだわりを持たずにどんどん取り入れていく柔軟な姿勢を持っていたでことで、これだけの面白いものが出来たであろうことが想像できてとても楽しい。頭の固い人にはとてもこんな音楽はできないだろう。

中期以降は萩原哲晶に代わって宮川泰が作家として加わってくるが、こちらも全く引けを取らないいい仕事をしている。

音楽をやっていると、歌の上手い人、ギターの上手い人、ピアノの上手い人、演奏面でうなってしまうほど上手い人は世の中にいくらでもいる。しかし俺が絶対的にひれ伏してしまうのは、何といってもアイデアを持った人だ。人があまり発想しないようなアイデアを、たとえボツになろうがおかまいなしにどんどん出せるミュージシャンを俺は無条件で尊敬する。そういう人はたとえ演奏面での技量が足りなくても全く問題ない。その何十倍ものアイデアによってそんなもんは大した問題ではなくなる。まあもちろんそれで技量がついてくれば鬼に金棒、これぞまさに一流のミュージシャンだよね。

音楽を作る上では、俺は演奏の技量よりもアイデアを重視したい。しかし一人で音楽を作っていて煮詰まってしまうと、どうしても自分のアイデアの限界を感じる瞬間がある。そんな時、この『クレイジーシングルス』を聴くんだ。

そのどこまでも突き抜けるアイデアの奔流に身を任せると、途端に自分のアイデアの限界なんてどこかに吹っ飛んでしまう。

「そのうちなんとかなるだろう」

この言葉にこれまでの危機を何度救われた事か。

そう、実際ほんとになんとかなるんだよ!

俺の座右の銘である。

歌詞、歌、アレンジ、そしてほとばしるアイデア

それら全てを踏まえたこのクレイジーの精神は、今こうしてしっかりと根を張ってペーカンの音楽に確実に息づいている。

これで日本も安心だ!

だまってあなたについていきますよ。植木さん!!!

さあいっちょ

ブァーっといくかぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!

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俺にとってのクレイジー最大の衝撃曲「これが男の生きる道」

今でも聴く度に鳥肌が立つ戦慄の名曲だ。

そしてこのジャケットも!!!