チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

桜に包まれて

現在レコーディング中のペーソス艦隊。

その中の一曲「氷結の森」での、リリー武志の例えようもなく素晴らしい歌のレコーディングを終えた或る日の夜。

歌と詞と曲と全てが理想的にかみ合った一つの到達点を実感し、とてつもない作品に仕上がることを確信した充足感と達成感で、ある種の酩酊的感覚に浸りながら終電に乗って駅に降り立った午前1時。

帰る道すがらにある公園は満開の桜の花に覆い尽くされて、真夜中にも関わらず薄ぼんやりと白く妖しい輝きを周囲に放っていた。

まるで吸い込まれるかのように誰もいない公園に足を踏み入れ、しばし立ち尽くす。

公園の中央には、見た事もないような重厚感のある桜の巨木が、周囲360度にわたって枝を一杯に広げている。

その樹の真下にはちょうど寝そべる事の出来る遊具がぽつんと置いてあった。

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足は自然とそこへ向き遊具に身を横たえると、眼前を覆うのは満天の星ならぬ、満天の桜花。

視界の全てが満開の桜に覆われ、その向こうには深夜1時の漆黒の夜空が辛うじて透けて見えるだけ。

意識は陶然と別世界へと飛び、思考は宙天を彷徨っていた。

しばしの時が過ぎ、それを現実の世界へと呼び覚ましたのは、花冷えと称される桜の妖気を忍び持った夜の冷気であった。

身震い一つと軽いくしゃみが、深夜の住宅街に予想外の大きさで響き渡っていった。

ほんの短いその時間、確かに桜の神秘の世界に迷い込んでいた。

来年もまたここへ来られるように。

来年もまたそこへ行けるように。

一年間待ち続けよう。

「桜へ告ぐ」を書いたのはもう7年も前の事だ。

俺も少しだけ大人になった。

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