チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

Little Glee Monster 4thアルバム『FLAVA』を聴いて

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リトグリ待望の4thアルバム『FLAVA』がついにリリースされた。

今回も昨年リリースされたシングル曲&カップリング曲に新曲4曲というラインナップは昨年1年間のベスト盤といった内容。

このアルバムの印象を一言で言うと、陳腐な言葉になってしまうが「少女から大人の女への狭間」という感じ。
これまでの女友達とワチャワチャ騒ぎ、時には仲違いしつつも互いを応援し合ったり、時には初々しい恋をしたりといった内容から、歌詞の内容も曲調も確実に大人の女への入り口を開き始めている。
そういう意味では今この時期のこのアルバムでしか表現できなかった儚い刹那を描いた世界と言えるかもしれない。

一通り聴いた中で自分にとってのベストトラックは『CLOSE TO YOU』と『君のこと』の2曲。
『CLOSE TO YOU』は以前にも言及したことがあるのでここでは詳しく述べないが、改めて聴いてもそのめくるめく折り重なる華やかなコーラスアレンジに心ときめく。

そして『君のこと』は今回初出しのまっさらな新曲。これが素晴らしい。
曲調は落ち着いたバラードで、その端正なアレンジと曲調は、ツイッターで言及している方がいたが、まるで初期のオフコースを彷彿とさせる。
歌詞も従来の初恋のトキメキから成長して、穏やかな将来を見据えた大人の恋愛。
リトグリもこんな歌が歌えるようになったんだな。
歌い方もそれぞれ新たな表現力を発揮していて、特にアサヒのウィスパー気味の歌唱は絶品。
リトグリはライブで更に魅力が2割増しになるので、この曲もライブでどんな表現をしてくれるのか今から楽しみでならない。

『CLOSE TO YOU』にしても『君のこと』にしてもどちらもアサヒがかなりフィーチャーされている。
ここからもわかるように、このアルバムではアサヒの成長と自信が著しい。
付属のライブDVDでの自信に満ちてひときわ輝いているステージ上のアサヒは、数年前の自信なさ気に一歩退いてはにかんでいた少女と同じ人物とは思えないほど。
そんなアサヒが気がつけばいつの間にかリトグリのエース格に育っていた。

太くて男前の声が多いリトグリの中にあって、アサヒの甘いのに抜けのいい声は、アイドルファン層にも訴求力がある。

以前からメンバー間からもメンタルの強さには定評がありながらも、天然ボケ担当のいじられキャラでかつ妹キャラとして可愛がれながら、人知れず努力を怠らず虎視眈々と密かに日夜牙を磨いていた小林あさひのサクセスストーリーにこれからも注目したい。

他の曲にも触れておくと、『世界はあなたに笑いかけている』は昨年あらゆる場面で披露されることが多く正直食傷気味ではあったが、やはり改めて聴いてみるとその完成度と楽曲の持つパワーはケタ違いに高く、堂々たるリトグリの代表曲の座を確立したと言える。

I BELIEVE』のメロディーは自分世代にはどうしても大事マンブラザーズバンドを思い出してしまって困る。イントロも大仰でちょっと自分の好みではない。
ただ力強い歌詞や曲調などは今の若い人にはウケるのかもしれないね。

 『恋を焦らず』は、まさにこういう曲を待っていた!というおじさんたちの大好物な曲。
随所で聴かれるバリサクやドラムのフィルの音色とかもうたまらないよね。
その60年代のモータウンミュージックをオマージュしたレトロなサウンドは、今は亡きエイミー・ワインハウスを彷彿とさせ、manakaが昨年の秋ツアーでエイミーをカヴァーしたのもこういう流れがあってのことと得心。
個人的にはあのカヴァーはとても嬉しかった。
「いやいやダメ彼はダメ〜」は最高だね。よくぞ攻めてくれたと思います。

『夏になって歌え』は、さすがいきものがかり水野良樹というべきソツのないポップバラード。今後長く歌われていくことになるだろう。
ちなみにこの曲がもしイントロドンで出題されたら、ユーミンの『ダンデライオン』か、オフコースの『さよなら』のどちらかと盛大に間違える自信がある(^_^;) add9つながりで。

『青い風に吹かれて』は、自分が思う「これぞリトグリ!」という曲。
こういう曲がたくさんあると個人的には嬉しい。

 さて、こうしてアルバム全体を聴いてみて、リトグリの歌の完成度は非常に高くて文句のつけようがないのだが、少し気になる点を挙げると、そのゴージャスなコーラスに比べてトラックのサウンドが生楽器不足でややチープに聴こえてしまうこと。

今のリトグリに制作費がないとも思えないので、もしかするとこの軽いサウンドは敢えて意図したものかもしれないが、せめてドラムやブラスやストリングスはもっと生音をふんだんに使ってほしかったところ。

 もう一つは、これまでのアルバムに比べて、やや新曲のインパクトが弱いかな〜ということ。
例えば前作では『Love To The World』『Get Down』というこれぞリトグリの真骨頂というべき強力な2曲があった。
今回それに当たるのは『恋を焦らず』なのだが、大好きな曲ではあるのだが、やや狙いすぎで飛び道具的でもあり、今後長く歌われ続ける名曲かと言うと疑問が残る。
その分新境地を開いた『君のこと』は大きな収穫だったが。

そしてもう一つ。
デビューからここまで、リトグリの衝撃はひとえに「このあどけない少女たちがここまで本格的な歌とハーモニーを!?」という、言葉は悪いが「恐るべきガキども」の底知れなさだった。
それが年齢を重ねて成人を迎えたメンバーも出てきたことで、ようやく実力に年齢が追いついてきて、当初の文字通りの「モンスター感」がそろそろ薄れてきたこと。
世間のイメージ的にも、リトグリといえば最早歌が上手いのは当然であり、これからもどんどんハードルが上がってゆく。
冒頭で述べた「少女から大人の女への狭間」というのはそういう意味もある。

そのハードルをどう乗り越えていくか、これから制作陣の腕の見せ所だと思う。
とはいえリトグリの制作チームは現在のJ-POP界最強だと信頼しているので、これからのリトグリがどんな方向に進むのか、楽しみにしていようと思う。

付け加えると、付属のライブDVDの出来が今回も素晴らしい。
自分にとってはどちらかと言うとこちらのほうがメインというくらい、何度観ても飽きない。
本当にリトグリのライブの素晴らしさはどんな言葉を尽くしても言い表せない。
これまで事あるごとに言っているが、今回も言わせてもらおう。

リトグリのベスト盤を出す時は是非ライブ録音で!!!」

Qlair → J☆Dee'Z へと受け継がれた楽曲派アイドルの系譜

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その昔、Qlairという3人組がいた。

当時のアイドル界においては驚くほどの優れた楽曲と3声のハモりを取り入れた楽曲派グループだったが、時はアイドル冬の時代、優れた作品を残したものの志半ばで解散してしまった。

自分は今J☆Dee'ZにQlairの幻を見ているのかもしれない。
歌やダンスのレベルは桁違いに進化しているものの、その楽曲派としての系譜はQlairから四半世紀の時を超えて着実に受け継がれているものがある気がしてならない。

そう思うのはJ☆Dee'ZのNonoがQlair吉田亜紀に似ているということもある。
そうなるとあとの二人が当てはまるのはMOMOKAが井ノ部さん、Amiが今井さんかな〜。いや、逆かな??

12年前にQlairについて書いた当ブログ記事。
力入ってるなぁ(^o^;)


【偶然よく似た衣装の両者比較映像】

Qlair『秋の貝殻』(1992)


J☆Dee'Z『流星のパノラマ』(2018)


稀勢の里引退

稀勢の里がついに引退した。

最後の引き際は決して潔いとは言えず、やや晩節を汚してしまった感があったが、若い頃から注目され、期待され、大きなプレッシャーの中、よくぞここまで孤独と不安と批判に耐えて頑張ってきたと思う。

彼のあまりに愚直さ故に、つねにどこか足りない、届かないもどかしさ。
これに多くのファンは感情移入し、一喜一憂し、喜びや悲しみを一緒に体験してきたのだろう。
そういう意味ではこれほど愛されたお相撲さんもあまりいないのではないか。

個人的には大関昇進の時も横綱昇進の時も星が足りず、正直甘い昇進だったと今でも不満に思うし、それが故に成績不振の際の「ほら見たことか」という批判の大きな理由にもなってしまった。

何より不運だったのは、横綱昇進直後、連続優勝してそんな不安と不満を全て自らの力でふっ飛ばすかに思えた矢先の致命的な大怪我。
結果これにより、その後の相撲生命を絶たれてしまったのは本当に気の毒というほかない。
どれほど無念だったであろうことは想像するに余りある。

しかし横綱として結果を残すことは出来なかったとはいえ、多くの人の記憶に色々な意味で残る横綱であったことは間違いない。

長い間お疲れ様でした。そしてありがとう。

 

今更ながらの後追いで聴くユーミンアルバムレビューーその9ー(2004-2011)

最近になってユーミンを聴き始めた自分にとって、先日の紅白歌合戦出場は非常にタイムリーだった。
とはいえ、最近の彼女の生歌には不安のほうが大きく、生出演には半信半疑だった。
しかし蓋を開けてみたら、そんな不安はどこかに吹っ飛ぶほどのさすがのスターのオーラとエンタテイメント性で本当によかった。
本編で披露した『ひこうき雲』と『やさしさに包まれたなら』もよかったが、特にラストのサザンオールスターズのステージに乱入して桑田佳祐と『勝手にシンドバット』を歌ったシーンは、昭和と平成という二つの時代を駆け抜け、また新たな時代に突入しようとするこの稀代の二つの才能にひれ伏す思いだった。まさに平成最後の紅白にふさわしい歴史的シーンだった。いいものを観た。

さて、アルバムレビューに戻ろう。
2000年代になり、アルバムのセールスは激減してしまったものの、ここ数作はそんな中でもしっかりと高クオリティの作品を作り続けてきたユーミン

年齢もいよいよ50代に入り、更に円熟した作品を生み出してくれるのか、楽しみだ。

 

33. VIVA! 6×7('04)松任谷由実

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冒頭、古い洋画の台詞のようなSEから始まり、田島貴男とのデュエットのスウィートソウルナンバー『太陽の逃亡者』、続いてゴージャスなアレンジのスパイ映画のような『恋の苦さとため息と』と来れば、まるで『女王陛下のピチカート・ファイヴ』を彷彿とさせる。
続く『Choco-language』の「イェイイェイウォウウォウ」コーラスもレトロな雰囲気を醸し出して中々面白い。

しかしそういうコンセプトアルバムかと思うのはここまでで、あとの曲は残念ながら正直もう一つ印象に残らない。

田島貴男とのデュエットも、もう一つハマっているとは言えない。

個人的にはやや低調に感じたアルバム。

★5

 

【この1曲】

『霧の中の影』

そんな中から1曲を選ぶのも難しいが、強いて挙げるならばこの曲か。
ユーミン安定安心のバラード。

 

 

34. A GIRL IN SUMMER('06)松任谷由実

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しかしここで終わらないのがユーミンの底力。

これまでもそうだったが、基本的にクオリティの高い歴代ユーミンのアルバムの中でも、やや低調アルバムの次は必ず巻き返してくれる。
その例に違わず、今回も素晴らしいアルバムを作ってくれた。

 まず冒頭の波の音SEから始まり、そこに静かにフェードインしてくるストリングスとともに始まる1曲目の『Blue Planet』のイントロからもう一気に心引き込まれる。

そして2曲めにしていきなりこのアルバムのピークが訪れる『海に来て』。

それに続く『哀しみのルート16』は現代版サーフミュージックという感じで、ミュートギターの刻むリズムとアームを多用するサーフギターの音色が心地いい。

『もうここには何もない』は特に気合のこもったカッコいい曲。
「未来はいつもあとから来ては全てをさらっていく」という歌詞も冴え渡っている。

ユーミンといえば巧みな転調が魅力の一つだが、小室哲哉のような唐突な転調とは違い、必ず流れを伴った自然な転調なので、転調したことに気づかないこともあるくらいなのだが、『虹の下のどしゃ降りで』の転調は珍しくそんな中でも意外性を持つかなりインパクトの強いもの。
キーで言えばB♭からAそしてGそしてCという流れなのだが、そこにそれぞれのキーの基音となるトニックコードが一度も出現しない(多分意図的に)ので、一聴しただけでは調性の混乱が起きる。
ちなみにコードの流れは
E♭M7onF - B♭M7onF - E♭M7onF - Em7 - Bm7 - E13 - Bm7 - E13 - Am7 - D13 - Dm7onG
となるのだが、手元に楽器がある人は是非この流れを弾いてみてほしい。癖になるくらいに気持ちいい。よくもまあこんな流れを考え出すものだ。

 捨て曲なしのままラストの『Smile again』はビートルズテイストで、サビ前のギターのフレーズがかつての『セシルの週末』を思い出させて、古いファンも喜んだのではないだろうか。

うら寂しい曇り空の海のジャケットのイメージの通り、全編を通して憂いを帯びた落ち着いたトーンの良曲が並び、トータルアルバムとしての完成度も非常に高い。

2000年代にして、かつての80年代の名作に肩を並べる傑作が生まれた。
ユーミン実に52歳。その才能は枯れることを知らない。

ユーミン昔は好きだったけど最近はどうもなぁ」という人に是非聴いてもらいたい。

★10

 

【この1曲】

『海に来て』

イントロの波の音を切り裂いてドラムのフィルからイントロが始まり、ふくよかなストリングスとボリュームギターが交互に押し寄せる波を表現するかのように次々と現れ、そのすべての音が心地よく、快感中枢をこれでもかと刺激してやまない。

サビの内声部で木の葉が舞い散るようにハラハラと下降していく柔らかいアナログシンセのフレーズがたまらなくいい。

最後はストリングスの穏やかな旋律に包まれ、再び波の音とフェードアウトしてくところまで本当にパーフェクトなポップミュージック。素晴らしい。

それにしても「微笑めるように」という日本語は初めて聞いた。

 

 

 35. そしてもう一度夢見るだろう('09)松任谷由実

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前作が久しぶりの傑作だったことで今作も期待して聴いたが、『Flying Messenger』 や『Judas Kiss』などユーミンらしいいいメロディの曲もあるが、うーむ、今回は全体的に低調か…。

とはいえ『Bueno Adios』ではタンゴに挑戦したり、『黄色いロールスロイス』では加藤和彦とデュエット(ほぼ加藤和彦生前最後に近い音源らしいのでそういう意味では貴重ではあるが)したりと色々工夫してはいるのだが、どうもパッとしない。
そもそもユーミンはこれまでデュエットだったりコラボだったりフィーチャリングだったり何人かとやっているけれど、どれも成功しているとは言い難い。
なんでかな?ユーミンの個性が強すぎて他人と合わせられない??

全体的にスネアのピッチが高い曲が多く耳に痛いことも気になる。

★6

 

【この1曲】

『人魚姫の夢』

このアルバム、イマイチかな…と思っていたら、最後の最後の『人魚姫の夢』でぶっ飛んだ。

過去のユーミンの数多の名曲に肩を並べる素晴らしい曲ではないか!
これがあるからユーミンはあなどれない。これ一曲でこのアルバムの価値は一気に上がった。

メロディ、アレンジ、歌詞、すべてがうっとりするほど素晴らしいが、特に最後のサビ直前の、ダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッタカトントコトンというひたすらスネアとフロアタムを2小節に渡ってクレッシェンドしながら8分で連打するだけという、これ以上ないシンプルなフィルインが最高にドラマチック。
このフィル、以前にも聴いたことある気がするけどどの曲だったっけ…?

 

 

36. Road Show('11)松任谷由実

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個人的にもう一つの印象だった前作に比べ、『ひとつの恋が終るとき』『コインの裏側』『ダンスのように抱き寄せたい』といった佳曲もあり、ユーリズミックスのような出だしからいきなりポップなサビになる『今すぐレイチェル』も面白いし、『太陽と黒いバラ』ではビブラートをビンビンに効かせてユーミン全キャリアの中でも最もドスの利いたド迫力の歌唱を聴かせてくれたりと、聴きどころはたくさんある。
声もこのアルバムではかなり出ていてコンディションもいいようだ。

ただ、それぞれの曲はまずまずいいんだが、どうも以前あったようなユーミンならではの「うわーこう来たか!」と思わず唸ってしまうような部分が薄れ、曲がみんな妙に素直になってしまったような印象を受ける。

よく言えばシンプルでストレートとも言えないこともないのだが、個人的にはやや物足りない。

★6

 

【この1曲】

『ダンスのように抱き寄せたい』

ここはやっぱり安心安定のユーミン節のこの曲。
年齢相応の歌詞と味わいがよく出た曲。

 

ongakubakufu.hatenablog.com

 

今更ながらの後追いで聴くユーミンアルバムレビューーその8ー(1997-2002)

90年代に入り、『真夏の夜の夢』『Hello,my friend』『春よ、来い』と続けざまに大ヒットを飛ばしたあと、そう言えば自分の記憶ではパッタリとユーミンの曲の印象は残っていない。

実際、当時はドリカムなど若手の台頭があり、一気に世代交代の波が押し寄せたようで、ユーミンの売り上げも急激に降下してしまったようだ。

確かに前2作はやや低迷感を感じるものがあった。

当然危機意識は持っていたと思われるが、その意欲が空回りしてしまっている感じ。

ユーミンはこのまま過去の人となり、終わってしまうのか?と、当時の多くの人は考えたかもしれない。

29. スユアの波('97)松任谷由実

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ところがどっこい、ユーミンは終わってなんぞいなかった。 

一曲目の『セイレーン』の軽快なリズムの爽やかなギターサウンドから、ユーミン流スペクターサウンドの『Sunny day Holiday』、グッとくる泣きのメロディーの『夢の中で~We are not alone,forever』、極めつけの名曲『きみなき世界』、Beach Boys風(実際歌詞に「Good Vibration」が出てくる)の『パーティーへ行こう』の前半5曲の流れは非常に心躍らされる。

時をかける少女』の歌詞はそのままでメロディをまるっと付け替えた『時のカンツォーネ』も、メロディなんていくらでも生み出せるのよ!と言っているようで面白い。

いや〜このアルバムいいねぇ。
堂々たる楽曲と生楽器主体のふくよかなサウンドは自信と風格を感じさせる。

ただ前半の充実度に比べて後半がやや弱いかな…。

★8

 

【この1曲】

きみなき世界

Stingの『Englishman in New York』を彷彿とさせるレゲエのリズムで歌われる悲しい歌。

淡々と刻まれるオルガンのリズムに、ストリングスとガットギターが更に物哀しさを強調する。

 

 

30. FROZEN ROSES('99)松任谷由実

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更に好調は続き、このアルバムも良曲がずらりと並んでいる。
特にアレンジ面ではラップあり、ギターポップあり、高速ビートを刻むボサノヴァあり、インドあり、ジャズあり、レゲエありと、非常にバラエティに富んでいて攻めている感じ。 
特にストリングスのスリリングな使い方が際立っている。
かといって尖っているわけではなく、全体のサウンド的には円熟した優しさに包まれている。

この頃になるとユーミンも、以前のように売り上げを気にせず、やりたいことをやっている感じで非常に好ましい。

このアルバムも大好き。

ただ声の変化(「劣化」とは言いたくない)は更に進行し、その少しディストーションのかかったような声は一種独特の凄みと迫力を増している。
…と好意的に受け取ってしまうのはもしかすると俺も「ファンの贔屓目」に陥っている可能性もあるのかな?(^o^;)

★10

 

【この1曲】

『Rāga#3』

バラエティに富んだ良曲揃いの中でも極めつけはこの曲。
以前からか少しずつ見え隠れしていたユーミンのインド趣味がここで爆発。

電子音とブレイクビーツと歪んだギターと加工された呪術師のような声が、得も言われぬカオスな世界を生み出していて、何度も聴きたくなるほど味わい深い。

サビでおもむろに出てくるおおたか静流のコーラスがまたいい。

これはこの時期でないと生み出せなかった世界だろう。
ユーミンはまた新たな音楽の世界に足を踏み入れた。

 

 31. acacia('01)松任谷由実

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 2000年代に入っても好調は続き、ついには収録曲も一気に増えて14曲入りの意欲作。
創作意欲の高まりと絶好調さがうかがえる。

『TWINS』はAABAという構成で、同じフレーズを執拗に繰り返すがそれが非常に印象的でクセになるのが、かつての『20minutes』を彷彿とさせてとても大好き。

荒井由実が現代に蘇ったような『Lundi』もとてもよい。

どれもかなりの名曲揃いで、14曲あっても全く長く感じない。

ここにまたユーミンの堂々たる名盤が生まれたと言っていい。

2000年代のユーミンもまだまだ大丈夫!

★9

 

【この1曲】

acacia [アカシア]』

名曲揃いのこのアルバムの中から1曲だけを選ぶのは非常に迷ってしまうが、「ユーミンらしさ」に溢れているのがこの曲。

サビの一発目のコードが Ⅴm7/Ⅰ というところが実にユーミンらしく、一瞬にして彼女の世界が眼前に広がる。


32.Wings of Winter, Shades of Summer('02)松任谷由実

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1980年の『SURF&SNOW』VOL.2と銘打たれたアルバム。

たしかに夏の海と冬の雪をテーマにした曲が並んでいるが、そこにはあの頃のような多幸感に溢れた浮かれた能天気さは一切なく、喪失感や過去を振り返るしみじみとした感情が歌われていて、そこに22年の年月の経過がかなり強いコントラストで表現されていて実に味わい深い。

サウンドも堂々とした落ち着いた風格が漂っておりとても心地良く、それぞれいい曲だが、全体を通したイメージはやや地味で、曲数も7曲と少ないこともあり、前作のような圧倒的な満足感には及ばない。

★8

 

【この1曲】

『雪月花』

ユーミンのソングライターとしてのテクニックをこれでもかと詰め込んだ素晴らしいメロディーで、歌詞はいつになく情緒的で、歌も珍しく感情を込めて歌いこんでいる。

歌声も安定していて、この年齢なりの表現の仕方をしっかりと体得した感じで、余裕すら感じる。

 

ongakubakufu.hatenablog.com

 

J☆Dee‘Z YEAR-END PARTY!!!2018

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12月14日にShibuya TSUTAYA O-WESTで開催された『J☆Dee‘Z YEAR-END PARTY!!!2018』に行ってきた。

チケットは早々にSOLD OUTしたようで、自分が入場した頃にはもう後ろまで一杯で、最近の急激なJ☆Dee'Zの認知の広がりと盛り上がりを実感する。

会場の期待が最高潮に達したところで始まったライブ冒頭は3人のダンスパートから始まり、いきなり『Fun Time Funk!!!』『君にStrike』という俺の大好きな真っ黒なファンキーナンバー2連発で一気に心を持っていかれた。
まるで「これがこれからのJ☆Dee'Zの目指す路線だよ!」と高らかに宣言してくれたようで個人的にはとても嬉しかった。
『君にStrike』の大サビのNonoの「アウトでもセーフでもない微妙な関係〜」が色気すら感じる妖しさムンムンで実にたまらない。
欲を言うならもっとリバーブをサービスしてとろけさせてほしかった所。

その後もノリノリナンバーからミディアムバラードまで怒涛の名曲連発。
聴いていて思うのは改めてJ☆Dee'Z曲は本当にいい曲ばかりだということ。
これなら初めて聴く人でも間違いなく心を掴むことが出来るだろう。

そして何より3人のパフォーマンスの向上のスピードの半端なさ。
J☆Dee'Zのライブを見るのは8月以来4ヶ月ぶりの3回目だったが、毎回観るたびにその急激な歌の上達とダンスのキレには目を見張る。

今回も3人それぞれの歌唱力はもちろん、ダンスで激しく動きながらでも全くブレることのない安定感のある発声と、何よりそんな中でもハーモニーのバランスをそれぞれの声量で自在にコントロールする技術の高さに唸ってしまった。

中盤お召し替えタイムで登場したゲストの11歳の超絶天才ウクレレ奏者近藤利樹くん、全く予想していなかったが、彼が実に素晴らしかったことを付け加えておく。
これまた渋い選曲の『コーヒールンバ』のカッコよさにはシビレた。今後要注目。

近藤くんとのコラボをはさみ、後半は3人それぞれのソロコーナーから。
それぞれの個性が発揮されていてどれも良かったが、やはりここでもNonoの『ひまわりの約束』の情感こもった歌声ににしみじみ聴き入ってしまった。

ライブ終盤はもう怒涛のダンスナンバー連発。
客席も一体になって盛り上がる盛り上がる。

こんな中にあって特筆すべきはMOMOKAの歌の安定感。
激しく踊りながらでも音程の確かさは素晴らしく、特に『Answer』でのMC後の静寂のあと、何のガイドもなくおもむろに発せられる「夜空に今」のスパーンと決まった正確なピッチがとても気持ちいい。
三人のハーモニーのピッチが怪しくなる場面でも、MOMOKAを基準に二人が合わせるようにしているようですぐに復活する。
発声も以前と比べて喉が開いて余裕が出てきたので声量も増し、その持ち前の伸びやかな歌声はライブでは実に頼もしい存在になった。

amiのひときわ目を引く存在感はますます凄みを増している。
その真剣な表情と眼力と魅力的な笑顔のコントラストとギャップには誰しも夢中になってしまうだろう。
最近の急激な歌の進化も素晴らしく、3人の歌のレベルが揃い、名実ともに他に例を見ない歌、ダンス、そしてルックスの3拍子揃った堂々たるボーカルアンドダンスグループとなったと言えるだろう。

アンコールでは待望の1stアルバムリリースが発表され、更には春のツアーの追加公演も発表された。
来年にはジェイディーズのさらなる飛躍が期待され、こんなライブハウスで観られるのも今のうちだけだろうな〜。

ラストの名曲『Melody』では撮影OKとなったが、この素晴らしさを目に焼き付けたく、途中カメラを構えるのも忘れて聴き入ってしまった。

前回のクアトロは自分の位置だと低音が回ってしまってやや聴きづらかったが、今回はそんなこともなく、スッキリしたとてもいいバランスで聴くことが出来た。
今回もバンドの演奏は鉄壁で、特にグルーヴ感があったように感じた。
素晴らしいバンドに拍手。

 ライブが全部終了しても、J☆Dee'Zのライブは非常に満足度が高く、12月の寒空の下でもとても心地よい爽やかな気分で帰路につくことが出来た。

本当に素敵なライブでした。ありがとう!

観るたび進化を遂げるJ☆Dee'Zにこれからもますます注目していきたい。

 

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リアル流星のパノラマ

東京でのライブから日付が変わってから帰宅。
今日は雲が多いので楽しみにしていたふたご座流星群はあきらめようと思っていた矢先、自宅の前で車の窓から特大の流星目撃。

これはもしかして!?と予感がして、ダメモトで厳寒重装備で近くの公園へ。
しばらく我慢して見上げていると雲はみるみる晴れ、夜空を無数の流星が飛び交っている!

それこそ星が降り注ぐようだった17年前のしし座流星群には及ばないが、それでも感覚的には大体1分間に1個くらいのペースで流れていたので、こんなに凄いのはあれ以来の大当たり!

17年ぶりの流星のパノラマ。

もうあんな体験は二度とできないと思っていた。

気温はマイナス4℃。あきらめないでよかった。

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紀平梨花時代到来

さてさて紀平梨花ちゃんGPファイナル制覇の衝撃からいまだ醒めやらず。
去年のジュニア時代からトリプルアクセルは飛んでいたし、いずれはフィギュア界を背負って立つ存在になるとは思っていたが、まさかシニア1年目からロシア勢を打ち破って世界の頂点に立ってしまうとは正直思わなかった。
トリプルアクセルももちろん凄いが、彼女の場合決してそれだけではなく、驚いたのは通常1年目は低く抑えられがちな演技構成点があのザギトワにほぼ負けていなかったこと。

ザギトワも決して本調子という感じではなかったが、演技構成点でここまで迫られてしまうと、全盛期の短いロシアっ娘ということもあり、来季以降はどうなるかわからない。

五輪金メダリストソトニコワを始めとしてラジオノワもポゴリラヤも今季はGPシリーズの出場はなく、どこへ行ってしまったのか…。(一番好きだったリプニツカヤは引退してしまった)
そんな中で我らがトゥクタミシェワたんの復活は嬉しい。

心配なのはメドベージェワ。ロシアのエテリコーチから離れカナダのオーサーコーチの元に拠点を移したことでまだまだ変化の途上とは言え、今季の演技は一体どうしたことか。昨季までのオーラがすっかりなくなってしまった。

しばらくはこの紀平梨花ちゃんの快挙の余韻に浸っていたいが、彼女とて決してうかうかしてはいられない。
来季以降は恐るべき4回転のトゥルソワ、シェルバコワをはじめ驚異のロシアっ娘ジュニアたちが続々と上がってくる。
紀平さんも4回転はもう既に練習では飛べているので来季以降は当然組み込んで勝負することになるだろう。
これからもますます女子フィギュアから目が離せない。

 

今更ながらの後追いで聴くユーミンアルバムレビューーその7ー(1993-1997)

80年代後半から90年代にかけてのバブル絶頂期のバカ売れ時期を過ぎ、社会的にはバブルは弾けるも更なるセールスを求められる中、新たな音楽を探求し続ける試行錯誤の時期に入った感がある。

さて、そんな状況で90年代のユーミンは一体どんな作品を作っていったのだろうか。
非常に興味深い。

 

25. U-miz('93)松任谷由実

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2作前の『DAWN PURPLE』あたりから作風に現れ始めたワールドミュージックエスニック風味が、ここでついに大ヒット曲『真夏の夜の夢』として一気に結実する。

当時はよくわからなかったが、こうして時系列で聴いていくと、この曲の衝撃度がよくわかる。
曲調といい歌い方といい、これまでのユーミンからはちょっと想像つかない大転換だったのだな。
おそらく以前からのファンは当時この変化にかなり驚いたのではないだろうか。
それでも大ヒットさせてしまうという所がまさにユーミンユーミンたる凄い所。

この『真夏の夜の夢』のインパクトと完成度があまりにも強烈なこともあってか、このアルバムは他の曲の印象がすっかり霞んでしまっている。

色々と新たな試みをしようとしているのはわかるのだが、やや迷走気味で、成功したのは『真夏の夜の夢』だけだった、という感じ。

★5

 

【この1曲】

真夏の夜の夢

というわけで一曲を選ぶとしたらもちろんこの曲。 

言わずと知れたユーミン最大のヒット曲だし、この曲が主題歌だったドラマも観ていたので自分もよく知っている曲だが、正直当時はアクが強すぎてあまり好きではなかった。
しかし今聴くとキャッチーで本当によく出来たいい曲だとわかる。
おそらく自分もここまでの全アルバムを聴いてきて「ユーミンの曲の楽しみ方」をしっかりと掴んだということもあるだろう。
アレンジに関しても、当時松任谷正隆氏が多用していてやや食傷気味だったオーケストラヒットが、この曲にはバッチリハマっている。
「冬彦さ〜ん!」あ、これは「マリオさ〜ん!」の方か。

 

 

26. THE DANCING SUN('94)松任谷由実

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しばらく迷走が続いていた中、ついに『真夏の夜の夢』の大ヒットで自信を取り戻したユーミンが満を持して世に送り出したのが、大ヒット曲『Hello,my friend』。
やや変化球気味だった前作『真夏の夜の夢』に対して、こちらは原点に立ち返ったかのような下降ベースの堂々たるポップスの王道で、漲る自信をひしひしと感じる。

しかしこれだけにはとどまらず、更に続けざまに送り出したのが、ユーミンの生涯を通じての代表作と言っていい『春よ、来い』というのだからこの時期の充実ぶりは凄まじい。

そんな大ヒット曲2曲が収録されているというだけで充分に名盤と呼べるのだが、それ以外の曲もこの時期の好調さを反映してかなりのクオリティを誇る。

中でも忘れてはならない重要曲が『砂の惑星』だろう。
近作見られていたワールドミュージックエスニック趣味が、『真夏の夜の夢』を経て更にここに深化している。
このアルバム全体を聴いて気付くのは、ユーミンの声や歌い方がこれまでとは変わりつつあるということ。
まあ若い頃からおばあちゃんのような不思議な声ではあったが、そんな中に時折見せる可憐な表情にキュンとさせられていたのが、このあたりになるとその可憐さが影を潜める。
特にこの曲などでは、ユーミン特有のちりめんビブラートをあえて強調し、更にホーミー的発声をまじえることで、さながら呪術師の老婆のような得も言われぬ妖しさを際立たせている。
この変化は、おそらく加齢的な声の変化が大きかったのだろうが、それを逆手に取って新たな表現の世界を手に入れるという、転んでもただでは起きない強かさが実に素晴らしい。
当時の自分はこの声がどうも受け付けなかったのだが、ユーミンの歌の楽しみ方を知った今では何とも言えず味わい深いものだ。

 久しぶりに90年代のユーミンに堂々たる名盤が誕生した。

★8

 

【この1曲】

『春よ、来い』

『Hello,my friend』も名曲だが、やはりここは『春よ、来い』にとどめを刺すだろう。。

近作のワールドエスニック趣味で無国籍調の曲が多くなってきたが、それが最終的にたどり着いて結実したのが、自らの生まれ育った「和」だったということか。
その純日本的「和」を表現するのに、安易に琴や尺八などの和楽器を使わずやり切るところに、松任谷正隆氏の心意気を感じる。

耳に残る印象的なピアノのイントロからラストの童謡『春よ来い』のコーラスに至るまで、どこを切っても完璧な紛うことなき名曲中の名曲。

 

 

 27. KATHMANDU('95)松任谷由実

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前作は久しぶりに入魂の傑作だったが、ここではやや力が抜けて趣味に走った感じで、例によってワールドミュージックエスニック風味があらゆる場面で全開。

特に『真夏の夜の夢』〜『砂の惑星』と繋いできた路線を受け継ぐのが『輪舞曲(ロンド)』。
これもまたコッテリしたむせ返るようなエスニックの香りがする曲。

そんな中にあって『Baby Pink』『Delphine』『Midnight Scarecrow』『Walk on,Walk on by』などはかつてのユーミンを彷彿とさせるような作風をアシッドジャズなど新しいアレンジで彩った楽曲で、古くからのファンは一安心したのではないだろうか。

とはいえ前作に入魂しすぎて力尽きたか、今作は全体的にかなり地味で印象に残らない曲が多い。(追記・この印象はしばらく聴いたのちに一変する。聴けば聴くほど良くなるスルメのようなアルバム)

声の変化は前作から更に進行していてやや心配なレベル。

★9

 

【この1曲】

『Walk on,Walk on by』

中々一曲を選ぶのも難しい楽曲群だが、敢えて選ぶならばこれか。
バカラック風味満載のアレンジで、メロディはかつてのユーミン節満開で安心する。
彼女はきっとこういう曲ならいとも簡単に、鼻くそほじりながらでも出来てしまうんだろうな。




28. Cowgirl Dreamin'('97)松任谷由実

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ジャケットを見て、「げっ、またバブリー路線に戻ったか!?」と不安になり、冒頭2曲は今までのユーミンには見られなかったハードなギターロックが続き、あげくの果てにはファイナル・カウントダウンのようなこっ恥ずかしいシンセブラスのイントロなんかも出てきちゃったりして「どうしたユーミン!?」と思ってしまった。

しかし全体を見れば『最後の嘘』という名曲を筆頭に、まずまずの佳曲が並ぶが、ラストの『まちぶせ』のセルフカヴァーは、残念ながら三木聖子や石川ひとみバージョンに遠く及ばない。どうして入れたのかな?

前作で心配された声だが、今作ではやや持ち直してしっかり出ている。

★6

 

【この1曲】

『最後の嘘』

堂々たる安心安定のユーミン節全開の名曲。
有無を言わせず圧倒的な感動を呼ぶ。

 

 

ongakubakufu.hatenablog.com

今更ながらの後追いで聴くユーミンアルバムレビューーその6ー(1989-1992)

時代はついにバブルに突入し、ユーミンのアルバムもシンクラヴィアを導入したド派手なデジタルサウンドや歌詞の内容などにその影響が色濃く現れるようになってきた。

 80年代前半はクオリティの高いアルバムを連発していたが、前作でその勢いが突然失速したことで一抹の不安を抱えながらも、そんなことにはお構いなくアルバム売り上げはうなぎのぼりに異次元のレベルで上昇して、いよいよバブル絶頂期へ。

 

21. LOVE WARS('89)松任谷由実

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バブル絶頂の年にリリースされたこのアルバムは、ジャケットもサウンドもまさに絵に描いたようなバブリー!

相変わらずドッシャンバッシャンキラキラとド派手で本当にやかましいバブリーサウンドで、楽曲はアレレ?だった前作と比べたらやや持ち直しているが、曲によって大きな出来のムラを感じる。

いい曲もあるのだが、全体を通して歌詞もサウンドも聴いていてまるで何かに急き立てられているかのようで、聴き終わるとぐったり疲れる。

まさに色々な意味でバブルという時代を象徴するアルバムと言えるのかもしれない。

ユーミン独特の、本人の多重録音による動きのない機械的でグシャッと密集したクローズドなハーモニーのコーラスはこの辺から始まるのかな?
これは気持ちよくて好き。

★6

 

【この1曲】

『Valentine's RADIO』

このアルバムの代表曲といえば『ANNIVERSARY』なんだと思うが、個人的にあまり好きではないので、めっちゃお洒落な『Uptownは灯ともし頃』と悩みつつもアルバムトップを飾るこちら。

ユーミンお得意のアルバム1曲目冒頭のワクワクするようなお洒落で軽やかなソプラノサックスのイントロから、巧みに転調をからめることで、A〜Fくらいまで構成がたくさんあるように感じる曲。

ほとんどのフレーズが「・タラララ〜・タラララ〜」という全く同じリズムで構成されているのにそう感じさせないという非常によく考えられた曲。

 

 

22. 天国のドア('90)松任谷由実

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一曲目はまるでプリンスかと思った。
まあまさしくそんな時代だね。

とにかくバカ売れしたようで、史上初めて200万枚を突破したお化けアルバムとして記録されているようだが、正直言ってユーミンのこの数年前、80年代前半の一連のアルバムと比較すると出来は格段に落ちる。
時代の勢いというのは恐ろしいものだ。

自分がこれまでユーミンにあまりいい印象を持っていなかったのは、もしかするとこの時期にラジオなどでさんざん流れていたのを嫌でも耳にしていたから、というのもあるのかもしれない。

★6

 

【この1曲】

『時はかげろう』

カルロス・トシキ&オメガトライブに提供した曲のセルフカヴァー。
オメガトライブバージョンも好きだったが、ユーミンバージョンもなかなか。

オメガトライブバージョンとキーが半音しか違わず、おまけに後半転調しているので、オメガトライブバージョンを聴いた直後にユーミンバージョンを聴くと同じキーに聴こえる。
超美メロ曲。
 

 

 23. DAWN PURPLE('91)松任谷由実

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4作続いたドッシャンバッシャンキラキラのいわゆるバブリーサウンドが、ここでようやく落ち着きを取り戻してくれた。
バブルの狂騒がようやくここに終焉したか。

そして久しぶりに冒頭から畳み掛けるように4曲も良曲が続く。
これは今後に向けていい兆しと願いたい。

しかしその後は相変わらず曲ごとの出来のムラが大きい。
間に合わせで作ってしまった(実際はそんなことないんだろうけど)ような、首を傾げたくなるような曲も入っている。

 ハウスやワールドミュージックの影響が見て取れる。

★7

 

【この1曲】

『情熱に届かない〜Don't Let Me Go』

サビのメロディは今までのユーミンにはあまりなかったタイプで、とても力強くてグッとくる、ユーミンの新境地。
ティアーズ・フォー・フィアーズへのオマージュがあからさますぎるが(^_^;)久しぶりに「ユーミンの名曲!」と呼べる曲かも。
 

 

24. TEARS AND REASONS('92)松任谷由実

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落ち着きを取り戻したかに見えた前作とは打って変わって、冒頭2曲がまた派手派手に戻ってしまって一瞬どうかと思ったが、その後はユーミンらしいミディアムな佳曲が多い。

バブルの時期を乗り越えてかつてのようなお洒落で落ち着いた作風が戻ってきたのは嬉しい。

『So High』では『青春のリグレット』で見せてくれたようなクロマチックな和音上昇が再び現れてニヤリとさせてくれる。

ただここ近作で、これまで一心同体で寄り添ってきたユーミンの曲と松任谷正隆氏のアレンジの齟齬を感じるようになってしまった。
「え、この曲でそのアレンジ?」というちぐはぐさが随所で浮き彫りになっている気がする。
たとえば『ミラクル』などは、曲自体もとてもいい曲だし、ベーシックなアレンジもお洒落で心地いいのに、無粋なオーケストラヒットがぶち壊している。
しかも92年といえば自分の記憶ではオーケストラヒットはもう既にかなり古臭いものになっていたはずなのだが…。

ユーミンのアルバムはそれぞれその時代の流行りものを取り入れているのが特徴だけど、このアルバムにもマイケル・ジャクソンかよ!?というアレンジも。

そしてハウスミュージックへの傾倒は更に深まっている。

★7

 

【この1曲】

『瞳はどしゃ降り』

このアルバムで一番の有名曲はトップの『無限の中の一度』かな。
ただ楽曲自体はサビがキャッチーでとても素晴らしい曲なんだけど、ハウスっぽいアレンジが地に足がついていないような感じがしてあまり好きではないので、このアルバムで数曲見られるかつての曲調に回帰した中のこの一曲。

歌い出しがいきなりⅡm7/Ⅴから始まるのも驚きだが、そのまま解決しないでどんどん展開していく所がいかにもユーミンらしい。

フリューゲルホルンとスライドギターがうっとりするほど気持ちいい。

 

 

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