クレア、と読む。
90年代初頭、乙女塾からCoCo、ribbonの後を追ってデビューした今井佐知子、井ノ部裕子、吉田亜紀による三人組。
CoCoやribbonの陰に隠れて世間的には地味な存在ではあったが、その楽曲のクオリティの高さは飛び抜けており、世にアイドルグループ数あれど、間違いなくアイドル史上燦然と輝く最高のグループであると俺は断言する!!!俺にとって生涯理想のアイドル像である。
後発ということでその分女性プロデューサーの元でじっくりとコンセプトが練られたようで、可憐、清楚といったアイドルの清潔感を純粋培養して、更に蒸留してどこまでも汚れを取り去った究極の世界を作り上げた。そう、アイドルに最も必要なものは「清潔感」だと俺は声を大にして言いたい!!!なのでいわゆるセクシー系のアイドルには俺は全く興味がない。
そして特筆すべきはその楽曲。1stアルバム『Les filles』で既にその世界は確立されており、少女の夢の中のおとぎ話をモチーフとしたイメージと、品のいい少女の揺れ動く恋心やささやかな冒険と生まれかけた自立心を、甘酸っぱい切なさを込めて美しい三声のハーモニーで丁寧に歌い上げるその作品はどこを切っても極上のPopsで、丹誠込めて丁寧に作り込もうとしたプロデューサーの意気込みをひしひしと感じる。
特にシングルカットされた『お願い神さま』は「この世にこんないい曲が他にあるのだろうか?」と溜息をついてしまうくらい信じ難いほどによく出来た曲で、曲のラストの吉田亜紀による「あ~あ、お願い神さま」という下りは、かつての石川ひとみの『まちぶせ』の「好きだ~ぁったのよあなた」の「ぁっ」に匹敵する衝撃的な部分である。とはいえこれは無意識だからこそ出来る技で、これを意識してやっていたらそれはタダゴトではないなと思っていたら、近頃出たアーカイブスのライナーで吉田亜紀本人が意識してやったと取れる発言をしており、それを読んだ瞬間、戦慄が走った。
そしてこの記念すべき1stアルバムは「雨の帰り道」という、もしこの曲がシングルとして出ていたらアイドル史上に残る傑作として語り継がれたであろう名曲で締めくくられる。これほど素晴らしい曲が単なるアルバムの中の一曲だというのがQlairの奥の深さを物語る。
Qlairは基本的に、いわゆるアイドル的歌唱法から感情を抑えた歌い方まで幅広いテクニックを持ち、最も安定したピッチを持つ吉田亜紀(Qlairのクオリティの高さは彼女のこの歌唱力の上に立脚する)がセンターで主旋律を受け持ち、少し舌足らずで鼻にかかった包み込むような柔らかい声を持つ今井佐知子が低音パートを受け持ち、そして誰が言ったか「奇跡のエンジェルボイス」、どこまでも透き通るような澄み切った美声の持ち主の井ノ部裕子が高音パートを受け持つという役割分担がしっかりしており、三人それぞれの個性が一つになった時の魅力は1+1+1=100くらいの魔力を生み出していた。特に活動後半は急激な成長を遂げた井ノ部裕子がここぞという場所でソロを取り、それがCoCoにおける三浦理恵子的、古くはおニャン子における新田恵理的ポジションの快感ポイントとなっていて、かなりおいしい所を持っていく。俺もそんな井ノ部裕子が大好きだったが、今改めて聴くと、今井佐知子の鼻にかかった声がとても癖になることに気付いた。要するに三人とも素晴らしい個性を持っている、ということだ!
ルックス面でも、最年少の無邪気な少女のような吉田亜紀を中心に、芯のしっかりした美人タイプの今井佐知子と、はかなげな守ってあげたいタイプの井ノ部裕子という二人のお姉さんたちが挟んで理想的なバランスを保っていた。(実際の性格は見た目と違うらしいところがまたいい)
そして2ndアルバム『CITRON』では、そんな少女たちがいよいよ夏休みを迎えておそるおそるはじけてみよう!というイメージで背伸びしながらも成長してゆく姿が描かれる。このアルバムも『思い出のアルバム』『一緒に見た風』といった、切なく胸を締め付けて離さないような名曲揃いだ。
クレアの魅力は、その2ndアルバムを挟んで発表されたシングル『さよならのチャイム』『眩しくて』『秋の貝殻』いわゆる「山口美央子三部作」と称されるこの三曲で頂点に達する。三曲とも涙なしでは聴くことの出来ない非の打ち所のない名曲だが、特に『眩しくて』は日本の歌謡曲史上においても屈指のポップチューンで、c/wの井ノ部裕子が歌う『君住む街』と併せて、アイドル史上最強のシングルと言って過言ではない。
そしてそんなQlairの世界がついに完成するのが3rdアルバム『Sanctuary』である。
クリスマスをテーマにしたこのアルバム、オープニングを飾る一曲目がいきなりインスト曲というアイドルのアルバムにはあるまじきスタートの仕方が、スタッフ陣の自信と意気込みを感じさせる。クリスマスというQlairの世界にもってこいのテーマが、ニュージーランドでロケされた映像とジャケット写真とこのアルバムが全てリンクして完成する。音楽的にももはやアイドルという範疇をとっくに飛び越え、複雑なハーモニーを駆使した非常に高度なアーティスティックな域に達している。アルバムの構成も、一曲目のインストの曲がアルバムの一番最後で歌が入って完結するという、非常に完成度の高いドラマチックなものになっていて、クリスマスアルバムとしてはフィル・スペクターやビーチボーイズのそれを凌駕する。
『Sanctuary』という金字塔を打ち立てた以降は、それに甘んじることなく更に新たな領域に挑むべく『SPRING LOVER 大作戦』というロケンローなシングル曲を発表する。吉田亜紀もモンチッチのように髪をバッサリ切ってしまい、当時これはあまりにイメージが違って俺は戸惑ったが、今聴いてみるとコーラスアレンジなどのクオリティは非常に高く、吉田亜紀のボーカリストとしての魅力が余すところなく炸裂しているとても意欲的な作品である。
しかしそのあとベスト盤を出したところで突如としてQlairの活動は終わりを告げる。
それはテレビ局や事務所の意向だったようで、ここまでQlairの世界を作り上げて来た音楽スタッフの落胆は如何ばかりだったろうか想像に余りある。
本人たちももちろんそうだっただろう。
そこまでの短い期間に発表された素晴らしい楽曲の数々を持って、Qlairは永遠に伝説となった。
Qlairは永遠に自分の心の中だけに生き続ける・・・と誰もがそう思っていた。
しかし
あれから12年。
奇跡が起きた。
アイドル・ミラクルバイブルシリーズ Qlair Archives Qlair (2005/11/30) Sony Music Direct この商品の詳細を見る |
思いもかけなかったQlairの全曲と映像を収録した『Qlair Archives』の発売。
やはり業界内でもこのアイドルグループの評価は非常に高かったようで、ここにきて再評価されることとなった。
しかし驚いたのはそんなことではない。
当時オケはできていたにもかかわらず、歌入れが行われる前に活動が終わってしまいそのままお蔵入りとなっていた幻の曲『永遠の少年』。なんとこれに12年後のQlairが再び集まり、歌を入れてついに完成されたというではないか!!!
12年ぶりのQlairの新曲である。
こんな奇跡があっていいものだろうか。夢ではないかと何度も頬をつねった。
そしてこの『永遠の少年』、詞も曲も素晴らしく、歌は三人とも12年経っても全く変わっていなかった。
何度聴いてもイントロが流れてくると涙が勝手に吹き出す。
ここに時を超えてQlairの最高傑作が誕生した。
YoutubeにてQlairの貴重な映像が観られる。なんていい時代なんだ。
この映像でQlairの魅力の片鱗を感じてもらえたらこんなに嬉しいことはない。
テレビの公開収録という劣悪なモニター状況の中ガチンコでハモるQlairをしかと見届けよ!!!