自分が物心ついて相撲を見始めた頃は輪湖時代真っ只中で、もうすでに横綱輪島は大スターだった。
しかし力は衰え始めていて、毎場所のように若い北の湖との優勝を決める一番で水入りの大相撲に持ち込まれ、最後はがっぷり左四つになってへたばって負ける姿が印象に残っている。
そんな中でも時折見せる黄金の左下手投げや吊り技の切れ味はまだ健在で、自分にとっては華やかというよりも「渋い」お相撲さんだった。
思い出すのは千代の富士が関脇で初優勝した場所、5日目に輪島と対戦したのだが、自分は普段は千代の富士の熱狂的ファンだったのに何故かその日だけは輪島を応援したくなり、国技館の相撲中継の放送席の真横で取組の間中必死で「わ〜じ〜ま!」コールをしていた。
応援むなしく輪島は負けてしまったが、今でもたまにその一番がTVで放送されると、かすかに自分の必死で応援する声が聴こえてくる。
何故その一番だけ無性に輪島を応援したくなったのかは今となってはわからないが、輪島が引退したのはその次の場所のことだった。