いよいよここからユーミン黄金の80年代に突入する。
70年代最後の前作『悲しいほどお天気』が名盤だっただけに期待したい。
9. 時のないホテル('80)松任谷由実
というわけで黄金の80年代の記念すべき1作目。
名盤『悲しいほどお天気』に続くアルバムで、こちらも巷では名盤との誉れ高いようなので楽しみにしていたのだが…、 んーやや期待はずれ。
このアルバムの最大の特徴は歌詞だろう。
これまでどこか私小説風とも受け取ることが出来るものが多かったが、ここでは完全フィクションのストーリーテラーに徹していて、それぞれが一篇の短編小説のよう。
とはいえこの当時は新しい試みで新鮮だったのかもしれないが、歌詞の内容が必要以上に重くて暗くリアリティに欠け、楽曲とアレンジももう一つ冴えない印象。
新境地を切り開こうという意欲を感じ、とても丁寧に作られていることはわかるが、残念ながら自分には合わなかった。
★8
【この1曲】
『水の影』
なので1曲選ぶのも中々難儀だが、そんな中でラストを飾るこの曲はかつての荒井由実時代の安定のユーミン王道の曲調で安心して聴かせてくれる。
10. SURF & SNOW('80)松任谷由実
そんな前作の反動なのか、一転して明るく脳天気な、どポップアルバム。
しかしこの脳天気な世界は今聴くと無性に気恥ずかしく、いたたまれなくなる部分もある。
重苦しいものから脳天気なものへ、あまりにも振り幅が大きくて戸惑ってしまう。
うーむ、この後もこんな感じが続くようだと、ユーミン全アルバムを制覇しようという当ブログの壮大な企画も早くも存続の危機か?
★7
【この1曲】
とはいえやっぱりユーミンの代表曲といえばこの曲だろう。
アレンジは今聴くとダサダサだが、この歌詞は何度聴いても素晴らしい。
聴くたびにキュンキュンして目が潤んでしまう。
楽曲に関しても、サビの「♪つむじ風追い越して〜」の所の I - II/I - VIIm7 - III7 という進行はかなり斬新だったのではないだろうか。
11. 水の中のASIAへ('81)松任谷由実
二作続けて両極端に振り切った作品を出したことで、ここは一つリセットの意味もあったのか、アジアをテーマにした企画モノのミニアルバム。
しかしこの試みはかなり成功していて、企画モノとは言えど中々クオリティは高い。
★7
【この1曲】
『スラバヤ通りの妹へ』
インドネシアを舞台にした曲で、その後ワールドミュージックブームでインドネシアが注目されるはるか以前に目を付けていたのはさすが。
純粋にいいメロ、いい曲。
12. 昨晩お会いしましょう('81)松任谷由実
そして並々ならぬ気合で満を持してという感じでリリースされたと思われるこのアルバムは、1曲目『タワー・サイド・メモリー』のイントロが鳴り響いた瞬間に「あ、これはいいアルバム!」と確信できる、最初から最後まで捨て曲一切なしの良曲ばかりの名盤!
サウンド的には、時代的にスティーリー・ダンの影響が強く感じられ(「ガウチョ」の翌年)、「街角のペシミスト」のブラスアレンジや「手のひらの東京タワー」や「グループ」の妖しいコード感も素敵。
個人的にユーミンの真骨頂はタイトなリズムの小洒落たAORサウンドだと思うのだが、まさにこのアルバムはそんなサウンド満載。
ちなみに自分がユーミンをリアルタイムで知ったのは、このアルバム収録の「守ってあげたい」の大ヒットだった。
しかし当時ザ・ベストテンなどの歌番組には毎週ランキングされるものの全く出てこないし、曲も毎週ラジオで聴いていたのだが正直子供心に退屈な曲だと思っていた。
しかし37年経って改めて聴いてみると、しみじみいい曲ではないか。
★10
【この1曲】
『グレイス・スリックの肖像』
名曲ぞろいのこのアルバム、『A HAPPY NEW YEAR』と最後まで迷ったがどうしても選びきれない!
「フレール・ジャック(アーユースリーピング)」の引用のイントロからドラマチックな中にも抑制的なアレンジの素晴らしい『グレイス・スリックの肖像』には感情を揺さぶられるし、研ぎ澄まされた静謐な空気感を感じる『A HAPPY NEW YEAR』もどちらも本当に素晴らしい曲。
自分にとってこのアルバムは荒井由実初期作品と並んで生涯の愛聴盤になりそう。