いつものように遅い朝。
何かひどく奇妙な夢を見たのは確かなのだが、その内容がどうしても思い出せない、そんな、どこか何ともいえぬもどかしさを抱え込んだままの目覚めだった。
そんなもやもやした気分を払拭しようと、いつもよりも思いきりよくブラインドを開けた。
そこにはいつもと変わらぬ風景が、気だるげな正午の青空を反射した空気とともに横たわっているはずだった。
しかしそこに発生している何か重大な変化を認めるのを拒み、「いつもと変わらぬ風景」であることを無理矢理納得させようとしている自分がそこにはいた。
変化?
そう。
視界の片隅で、確かに何かが昨日までとは違っていた。
しかし記憶の焦点の定まらない頭は、なかなかそれを認識しようとしない。
が、やがてしばらく虚空を彷徨っていた目が、ようやく目の前の空き地で止まった。
空き地?
昨日までそこに空き地などなかったではないか!
記憶に貼り付いている「いつもの風景」を構成していた何か重大な要素がそこには欠けていた。
しかしいくら記憶の糸をたぐり寄せても、昨日までその場所に何が存在していたのかがどうしても思い出せない。
しかもそこには、一面に草が生い茂り、掘り返したような跡もなく、まるでもう何年も前から空き地であったと、なにか殊更に主張さえしているようだった。
今更ながら自分の「記憶」というものの曖昧さを思い知らされた。
はたまた、そこに住んでいたのは宇宙人で、地球を立ち去るにあたって人々の記憶までも消し去っていってしまったのか。
今となっては知るすべがない。
しかしまた明日からはこれが「いつもの風景」になってゆく。
どこから逃げてきたのか首輪をつけた一匹の猫が、そんなことには全く興味がないと言いたげに、アスファルトにできた束の間の日溜まりの中を、大きな欠伸をしながらのっそりと横切っていった。
そしてそのあとを、「束の間」の終息を告げる一陣の風が追いかけて行った。