チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

8月に読んだ本

國破れてマッカーサー西 鋭夫

童話集 銀河鉄道の夜 他十四篇

宮沢 賢治
魚籃観音

筒井 康隆
近所迷惑―自選短篇集〈1〉ドタバタ篇

筒井 康隆
日本人が勇気と自信を持つ本

朝日新聞の報道を正せば明るくなる

高山 正之
バカの壁

養老 孟司

國破れてマッカーサー 國破れてマッカーサー
西 鋭夫 (2005/07/26)
中央公論新社

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戦後三十年が経った時、時効によりアメリカ国立公文書館で公開された日本占領時の機密文書。この資料に直接当たり、当時占領下で何が行われたかをアメリカ側の資料によって詳細に明らかにしたした本。

敗戦直後、打ちひしがれる日本国民に対して、矢継ぎ早に打ち出された教育・憲法・報道・民主主義の思想。敗戦で日本国中が焦土と化し、大きなダメージを受けていた日本国民にとってそれは神の声のように響いた事であろう。しかしそこには周到に用意された日本人の精神を破壊するアメリカの作戦が込められていた。そしてその作戦は大成功し、いまだに日本人はアメリカの精神的従属から抜け出す事が出来ない。アメリカがいかにしてそのプログラムを進めて行ったかが詳細な調査によって明らかにされている。

本文はアメリカの公文書に基づいているので、比較的淡々とした筆致で書かれているが、前書きと後書きは筆者の熱い思いが込められた胸が熱くなる名文である。

~「おわりに」より引用~

(前略)

 帝国主義という欧米の組織化された強者生存の、「力は正義なり」という、生死を賭けた戦いに出遅れたアジアの国日本が、「富国強兵」に国運を託し、全アジアを植民地にしていた欧米の暴力に屈せず、「国造り」に励んでいたが、ついに一九四一年、国家安全のためにと信じ、大戦争に突入した。

 その壮絶な戦いで、国のために死んで行った日本人を単なる「犠牲者」として片付けるのは無礼である。非礼である。戦歿者たちを「犠牲者」として憐れむのは、戦後日本でアメリカの「平和洗脳教育」を受けた者たち、またアメリカの片棒を担いで「日本の平和のために」と言っている偽善者たちが持っている優越感以外の何ものでもない。

 憐れむ前に、戦死していった人たちに、鎮魂の念と感謝の思いを持て。

 日本という「国」が悪で、日本国民は「無実の、いや無知な犠牲者」だという発想は、マッカーサーが仕組んだものだ。東京裁判も、この発想で進行した。

(中略)

 「忠誠」「愛国」「恩」「義務」「責任」「道徳」「躾」という日本国民の「絆」となるべきものさえも、それらは凶暴な「軍国国家主義」を美化するものと疑われ、ズタズタにされ、日本国は内側から破壊されていった。日本人は、「国」という考えを持ってはならない、日本人は誇れるモノを持っていないので、誇りも持ってはならない、「国」とか「誇り」という考えそのものが、戦争を始める悪性のウィルス菌であると教育された。この恐るべき、かつ巧妙な洗脳には「平和教育」という、誰も反対できないような美しい名札が付けられていた。

(後略)★★★★★

童話集 銀河鉄道の夜 他十四篇 (岩波文庫)童話集 銀河鉄道の夜 他十四篇 (岩波文庫)
(1966/01)
宮沢 賢治

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江戸川乱歩筒井康隆、そしてこの宮沢賢治、これが自分の人格形成に重大な影響を及ぼした、俺にとっての三大作家である。

俺の「三大作家の定義」は、『10代の頃にほとんど全作品を読み、なおかつ何度でも読みたくなり、定期的に読み返してしまう』。

なので、司馬遼太郎浅田次郎あたりも入れたい所なのだが、残念ながら『10代の頃にほとんど全作品を読み』の項でこれに当てはまらない。太宰治はこれには当てはまるが、『定期的に読み返してしまう』に当たらない。

というわけで、五年振りに宮沢賢治が読みたくなった。作品は何でもよかったのでとりあえず図書館で手に取ったこの文庫本に収められているのは、表題作の他14篇。

『どんぐりと山猫』『オッペルと象』『北守将軍と三人兄弟の医者』などの『○○と○○』シリーズは何度読んでも面白い。ところで中でも俺の大好きな『オッペルと象』なのだが、子供の頃ずっと『オッペルと象』で親しんで来たのだが、いつからかどこかで『オツベルと象』が正しいという説を聞き、実際大人になってから読んだ本は大体『オツベルと象』になっていたと思う。しかしこの岩波本ではやっぱり『オッペルと象』。ぜんたいどつちが正しいのかね?詳しい方いたら教えて下さい。

銀河鉄道の夜』は今さら言うまでもない名作で、何度読んでも新たな発見がある。特に今回はそれに増して『こんな場面あったかいな?』という箇所もあった。あとがきを読むと、どうやら編者によって解釈が違うようなのだが、これもどうなっているのか。

いずれにしても、読む人それぞれに様々なイマジネーションを呼び起こす宮沢賢治の世界。俺にとっては心の栄養素「すきとおったほんとうのたべもの」でもある。これからも一生読み続けることになるだろう。★★★★★

魚籃観音記 (新潮文庫)魚籃観音記 (新潮文庫)
(2003/05)
筒井 康隆

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その流れで筒井康隆も読んでみたくなった。

『ほとんど全作品を読み』とはいっても、俺が筒井康隆全集を読破したのはあの断筆宣言のずっと前の話だ。なのでよく考えてみたら復帰以降は全く読んでいなかったことに気がついた。

この本はそんな俺にとって初めて読む復帰後の作品。表題作は、どこを切っても立派なポルノだ。とても面白かったが、その他の作品はどこか以前と比べてパンチ不足な気がした。しかしラストに収められている『谷間の豪族』、この一編だけで星五つとなった。

この作品、かつての名作「熊の木本線」「遠い座敷」「家」などに代表される、『山奥の古い巨大な日本家屋に周囲から隔絶されて生活する共同体』というファンタジックなイメージの延長線上にある作品だ。筒井作品の中でも俺の最も好きなのがこの一種独特の世界観だ。日本人の潜在的なDNAに直接訴えかけるような郷愁をそそるこの感覚、目を閉じるだけで自然と映像が広がる不思議な世界だ。★★★★★

近所迷惑―自選短篇集〈1〉ドタバタ篇近所迷惑―自選短篇集〈1〉ドタバタ篇
(2002/05)
筒井 康隆

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調子に乗ってもう一冊。これは過去のドタバタ系の作品集。どれも昔読んだ作品だったが、以前ほどの感動はなかった。ていうかそもそも筒井康隆のドタバタ系の作品は昔からそれほど好きなわけではではなかったっけ。★★★

日本人が勇気と自信を持つ本―朝日新聞の報道を正せば明るくなる 日本人が勇気と自信を持つ本―朝日新聞の報道を正せば明るくなる
高山 正之 (2007/04)
テーミス

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今月もまた朝日新聞関連本。

副題はこうだが、内容は朝日に限定されずテレビを含めたメディア全般に関して、官僚、そして外交まで多岐に広がる。

書いてある事はほとんど全て同意できるし、今まであまり知られていない事実もあってとても面白いのだが、ちょっと筆致が感情的に過ぎるのが残念。言いたい事はすごぉぉぉぉぉ~くよく分かるんだけどね~。もうちょっと抑制の利いた書き方でもよかった気がする。でもどうしても怒りの余り感情的になってしまうんだよね。これがこの人の味なのかもね。★★★

バカの壁 (新潮新書)バカの壁 (新潮新書)
(2003/04/10)
養老 孟司

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数年前に大ベストセラーとなったこの本、その頃からずっと気になってはいたのだが読む機会がなかった。それがたまたま旅行先の宿の本棚にあったのでこれ幸いと読んでみた。

確かになるほどとうなずけること、例えば「人は常に変化する。昨日の自分と今日の自分とは全く別人なので、自分らしさなどというのは無意味だ」みたいなこともあれば、どうにも同意しかねるようなこともある。

まあいずれにしても自分にとっては「ふーん」という感想しかなくて、暇つぶしにはいいかもしれないが、何故これが大ベストセラーになったのかはさっぱり分からなかった。もっと面白い本はいっぱいあるのにね。★★