チェリーの音楽幕府

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私を通り過ぎた音たち 『ゆうゆ』

うしろゆびさされ組 うたの大百科 その3 ゆうゆうしろゆびさされ組 うたの大百科 その3 ゆうゆ
(2004/05/19)
ゆうゆ、ケラ&YuYu 他

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私を通り過ぎた音たち 『うしろゆびさされ組』より続く~

うしろゆびさされ組で試されたアイデアの数々が、まとめられ、昇華され、ついに完成したのがゆうゆ(岩井由紀子)の1stアルバム『ゆうゆ光線』だ。

それに先立ち発売されたソロデビュー曲『天使のボディーガード』は衝撃的な作品だった。

楽曲の構成も見事で、まずイントロでディミニッシュスケールを含んだ不安定な上昇下降を繰り返すフレーズから始まり、それが突然の解決を強く予感させるドミナントの強力なキメとブレイクが入り、おもむろに「ま~も~ぉって~♪」と歌い出したその瞬間に、日本中のいたいけな男子は全員メロメロになってしまった。

この衝撃的なサビで始まり、おニャン子による反復掛け合いもあり、Bメロではしっかりその後「PPPH」と呼ばれる事になるパン・パ・パン・ひゅ~♪のリズムを使い、ロカビリーチックなリズムも入りまた『た~す~けてぇ~♪』でサビに戻るという、どこを切ってもアイドルポップスとして非の打ち所のない名曲中の名曲なのである。

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そしてその後満を持して発売されたアルバム『ゆうゆ光線』は、ありとあらゆるアイデアがちりばめられ、様々なタイプの楽曲が並び、それが雑多になる事なくトータルイメージを形作り、アイドルポップ史上燦然と輝く名盤となった。

ゆうゆの声は非常に独特で、一歩間違うと耳に障る不快な声になってしまいそうなところを、絶妙のラインで保っており、逆にそのハスキーで喉の締まった感じが、切なさを表現するのに素晴らしい効果を上げている。

楽曲も一曲たりとも捨て曲なしの名曲揃いで、『天使のボディーガード』『アッというMAにMEっ!』『はてなが咲いた』『-3℃』といったゆうゆのイメージそのままの元気一杯ハジケソングは言うに及ばず、『モナリザのいたずら』『夏のダリア』といった切ないメロディでは、ゆうゆのその儚い声に胸を締め付けられる。特に『夏のダリア』は永遠に語り継がれるべき素晴らしい名曲である。

そしてアルバムの最後を飾るのは『時計じかけの片想い』。アンニュイでジャジーなこの曲に意外にもゆうゆのファルセットがピッタリ合うのだ!!!ゆうゆのファルセットの魅力を発見したディレクターはさぞかしほくそ笑んだ事だろう・・・。

デビューアルバムにしてこれほどの傑作を残したゆうゆであるが、次に出たアルバム『いや!』では、出来は決して悪くはないのだがちょっと狙い過ぎの空回り感が出始め、3枚目になると今度は楽曲のアイデアが散漫になると同時に、ゆうゆ自身が「上手く歌おう」という意識が出て来てしまった事により、その本来持っていた原石の魅力が薄れてしまった。1stアルバムにそのゆうゆ自身の魅力とスタッフのアイデアの一瞬の全てが結集していて、まさに「花の命」の短さを痛感させられる。しかしその素晴らしく輝いた瞬間を記録したこの一枚を残す事が出来たことだけでゆうゆは永遠に語り継がれるアイドルとなったのである。