チェリーの音楽幕府

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大貫妙子アルバムレビュー 〜その7〜 (1999〜2005)

1990年の『New Moon』あたりから長い低迷期(個人的見解)に入った大貫さん。
それを打破しようと前作ではかつての盟友坂本龍一と久々にタッグを組むも、低迷を打破するには至らぬ印象。
音楽的な迷いの時期はまだ続くのだろうか?

21. ATTRACTION('99)

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2年の間隔を空けて気分一新取り組んだであろう今作、まず1曲目の『Cosmic Moon』で今回のアルバムは今までと違う!と確信させてくれる。
歌のバランスをバックトラックと同レベルまで同化させ、ディレイなどを駆使した空間音響的サウンドは今までにない新鮮なアプローチでメチャメチャカッコいい。

それに続く『枯葉』『それとも』はLILICUBアレンジの2曲。
こちらは一転してフレンチニューウェーブといった感じで刺激的。
もう1曲の『Mon doux Soleil』は、前作にも収録されていてイマイチパットしなかったが、LILICUBアレンジによって見事に生まれ変わった。
LILICUBとのコラボはかなりの冒険だったと思うが、大貫さんにとって新鮮な刺激を与えてくれたのではないだろうか。

全体としては大貫さん安定のオーケストラサウンドで、楽曲の出来も久しぶりに良くて、並々ならぬ気合を感じる。
久々の快作。
★9

【この1曲】

『四季』
いい曲が多いが、中でも極めつけはこの曲。
90年の『花・ひらく夢』あたりから始まった大貫さんの和的アプローチが、ついにここで結実した。
スタンダード曲として後の世にも歌い継がれるであろう名曲。

  

22. ensemble('00)

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前作で久々の快作を生み出した大貫さん。
続く今作は更にその世界を壮大に広げ、堂々たる世界を作り上げた。
前作で長く続いた低迷を完全に脱し、久しぶりの充実期に入ったと言えるだろう。

1曲目からその唯一無二の世界は群を抜き、アルバムを通して壮大かつ豊潤なオーケストラサウンドに研ぎ澄まされた緊張感を孕んだ孤高の存在感は圧倒的。
前作ではいい意味での違和感があったLILICUBとのコラボも、このアルバムの緊張感の中に入るとしっかり馴染んでいる。

これまでの長きに渡るキャリアと年齢を重ねた末に到達した大貫妙子の集大成であり、文句なしの最高傑作だろう。

自分がこのアルバムレビューを始めたのは、90年代から彼女の活動を追いかけなくなってしまっていたので、その後の彼女の音楽を改めて追いかけたくなったからだが、ここまで順に聴いてきたおかげでついにこの最高傑作に出会うことができたのは、自分にとっても最高の喜びであり大きな収穫だった。10点でもまだ足りないくらい。
★10

【この1曲】

風花
アルバム冒頭を飾る坂本龍一アレンジこの曲のイントロ一瞬で、このアルバムの孤高の世界が印象付けられる。それほど圧倒的なサウンド
『LUCY』では正直イマイチパッとしなかった坂本龍一が、ここでは乾坤一擲の素晴らしくいい仕事をしている。
そのサウンドは触れたら一瞬で壊れてしまいそうな緊張感に満ちた、まさに静寂と幽玄の和の極致。

『RENDEZ-VOUS』
あまりにも名曲ばかりなのでどうしても1曲に絞れなかった。
この曲の壮大なオーケストラアレンジは、1曲の中だけでまるで一本の大作映画のようなストーリーを感じる。
見事としか言いようのないPIERRE ADENOTによるアレンジと楽曲に手放しで脱帽するしかない。

 

23. note('02)

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緊張感に満ちた前作からは一転して、アコースティックなバンド編成を主体としたサウンド
歌詞も孤高の切先から地上に降りてきたかのように身近なものになり、アルバム全体を通して穏やかでリラックスした雰囲気に包まれ、この時期の心身の充実を感じさせる。

山弦のアコギアレンジも気持ちいいが、特に森俊之がアレンジで非常にいい仕事をしている。
シンプルな小編成のバンドの生演奏で、そのサウンドはまるで70年代のユーミンにも通じる、いわば良心的なポップスと呼べるもので、とても心地良い。
★8

【この1曲】

Wonderland
ジャジーで軽快なそのサウンドは、あたかも自身のかつてのいわゆるシティポップサウンドに回帰しているかのようでとても気持ちいい。
どこを切っても自分好みのサウンドなので。 

 

24. One Fine Day('05)

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3年ぶりのこのアルバムでは、前作で非常にいい仕事をしていた森俊之がついにメインアレンジャーに躍り出る。
過剰なオーバーダブやエフェクトを取り払ったシンプルなバンド演奏による良心的ポップスの世界は更に研ぎ澄まされ、生々しい楽器の音と演奏が心に大きな安らぎをもたらす。

ひたすらにいい音楽を追い求めて年齢とキャリアを重ねた者だけが到達した大貫妙子サウンドの完成形と言えるだろう。全てが心地良い。
★9

【この1曲】

船出
どれもいい曲ばかりだが、アルバムの印象を決定づけるのが冒頭のこの曲。
余分な音を廃したシンプルなバンド演奏が本当に気持ちいい。 

 

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