江戸川乱歩全集 第5巻 押絵と旅する男
第6巻 魔術師 第7巻 黄金仮面 | 江戸川乱歩 |
驕れる白人と闘うための日本近代史 | 松原 久子 |
江戸川乱歩全集 第5巻 押絵と旅する男 (光文社文庫) (2005/01/12) 江戸川 乱歩 商品詳細を見る |
『押絵と旅する男』『蟲』『蜘蛛男』『盲獣』
江戸川乱歩の幻想文学の最高峰と言えばこの『押絵と旅する男』。
魚津へ蜃気楼を見に行った帰りのほとんど人の乗っていない汽車の中、という冒頭の情景でもうすでに夢のような幻想の世界に引き込まれて行く。
物語の舞台はこれぞ,という感じの明治のコテコテ浅草風味満載。
あのいわゆる『十二階』やその周りの風景が情緒豊かに描かれる。
余韻豊かな読後感は,その後も何度も読み返したくなる傑作であります。
『蟲』『盲獣』は、乱歩の中でもグロテスク趣味の極み。
これでもかこれでもかと刺激的な描写が続く。
『蟲』はそれでもまだ主人公が徐々に恐怖心と絶望に襲われていく心理描写は秀逸だが、『盲獣』になるともう乱歩本人が吐き気を催して後の版で一部削除してしまうくらいの悪趣味の極み。
『芋虫ゴロゴロ』だの『鎌倉ハム大安売り』って余りにも凄過ぎる破壊力だ。
しかしこれすらも乱歩の大いなる魅力の一つなのである。
『蜘蛛男』は『一寸法師』から始まった大衆向け通俗ものが開花する作品。
初期の乱歩もいいが、ここからの乱歩がまたそれにも増していい。
読者サービスも満載で本当に楽しい。
★★★★★
江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師 (光文社文庫) (2004/11/12) 江戸川 乱歩 商品詳細を見る |
『魔術師』『吸血鬼』
ここからいよいよ明智小五郎の大活躍が始まる。
乱歩の筆もノリにノリ、名調子に次ぐ名調子の連続だ。
『魔術師』ではのちの明智の結婚相手文代さんが犯人一味として初登場。
『吸血鬼』は今回久しぶりに読んだが、こんなに面白かったっけ!?
仕事の締め切り間近だというのに、寝食を忘れて読みふけってしまった。
乱歩自身の評価はあまり高くないようだが、どうしてどうして、息もつかせぬ展開と名調子はこの手の通俗ものでは最高傑作ではないか。
これが連載された当時の読者はさぞかし手に汗握り熱狂興奮の坩堝だったことだろう。
この物語では文代さんが明智の助手となり、のちの少年探偵団で大活躍する小林少年も初登場する。
特に文代さんがさらわれ、両国国技館の菊人形の大立ち回りの場面は俺の一番好きなシーンだ、
文代さんが国技館の照明を明滅してS.O.S.を明智に伝えるところなど、あの昔の国技館のドーム屋根が目に浮かんでゾクゾクする。
園田黒虹が何故出てきたのかはイマイチ不明だが、そんなところも乱歩!
クーもーたまらん!!!
★★★★★
黄金仮面―江戸川乱歩全集〈第7巻〉 (光文社文庫) (2003/09) 江戸川 乱歩 商品詳細を見る |
『何者』『黄金仮面』『江川蘭子』『白髪鬼』
『黄金仮面』は、その後沢山現れる「~~仮面」や「黄金バット」などの先駆けである。
快調乱歩の筆はとどまるところを知らず、ついにこの『黄金仮面』で世界的に有名な盗賊まで登場し、明智小五郎と世紀の対決を繰り広げる。
それにしてもこの「黄金仮面」というネーミング、素晴らしいじゃないか!
冒頭の謎に包まれた黄金仮面の描写と、それにともなって帝都が都市伝説の噂に包まれていく部分など、素晴らしい導入部分で、あっという間に乱歩の世界に引きずり込まれてしまう。
その後の展開もサービス満点、読者たちは狂喜乱舞したことだろう。
うらやましい。俺もその時代に乱歩を体験してみたかった。
『何者』は乱歩久々の本格探偵小説。
『江川蘭子』は当時はやった連作ものの導入部だが、これが意外に面白かった。
稀代の悪女(と思われるが未完なのでよくわからない)江川蘭子の生い立ちを描くことで、成長過程に起きた心理学的要因を探ろうとする。
さすが乱歩、導入部分は本当に上手い。
★★★★★
驕れる白人と闘うための日本近代史 (2005/08/24) 松原 久子田中 敏 商品詳細を見る |
さてちょっと息抜きに全く毛色の違うものを。
いわゆる『世界史』というのは、すなわちヨーロッパ史であり、西欧人の視点で書かれたもの。
そんな歴史観の中では、江戸時代の日本は『200年遅れた国』。
そんな遅れた国が維新後あっという間に欧米と肩を並べるようになったのは、決して劣等民族である日本人の力によるものではなく、我々欧米人が鎖国を開いて知識を与え、導いてあげた・・・というのが欧米人にとっての日本の歴史である。
そんな常識が一般的である中でそれを覆してしまう本をドイツで出版してしまったのがこの著者。
内容は、ペリーがやってきて開国した時、日本は決して200年遅れた国などではなく、もうすでに鎖国の間に国内にしっかりとした経済や流通、交通が成り立っており、開国後あっという間に世界に追いついたのはその準備がもうすでにできていたからで、何の不思議もない、というもの。
目から鱗の連続である。
実は俺はかつては今とは全く正反対の思想の子供だったわけだが、日教組の影響を色濃く受けた学校の教育はもちろん、そのほかに普段読むような本も、当時は今思えば日本の歴史に関しては階級闘争史観丸出しのものばかりだった。
そう、やれ身分制度の封建社会で圧政を受けていた農民たちが百姓一揆を起こしたとか、そんな事ばかりが強調されていた気がする。
しかしそんなのはごく一部のことで、大きな目で見れば江戸時代は文化にも経済にも教育も国民の意識も非常に成熟したものを持っていた時代だった。
それに対して欧米諸国は、日本の鎖国中、宗教の名の下に世界各地で大殺戮を繰り返し、やりたい放題のことをやっていた。
そんな連中に全く日本を責める資格などないのである。
とまあ上手く説明できないが、このような内容がそれ以外にも沢山学術的裏付けを持って書かれている。
要するに日本人はそんなに卑屈になる必要は全くないということ。
日本人が我が国の歴史に自信を持ち、元気になれる本。
★★★★