チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

青山透子『日航123便 墜落の新事実』

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自分にとって戦後日本重大事件、中でも下山事件三億円事件連合赤軍事件、グリコ・森永事件、オウム真理教事件などは、未解決だったり、一応の解決は見ているもののいまだに謎の部分が多かったりという部分において、特に大きな関心を持ち続けている。

それらと同様に、1985年の日航機墜落事故は航空事故史上最大級の事故である上に、ボイスレコーダーや捜索活動などにやや謎の残る点も多く、事故から36年経った今に至る間にも科学的な専門的なものから途方もない陰謀論に至るまでさまざまな疑問点が提示され、常に議論を呼び続け、自分も常に大きな関心を持ち続けてきた。
そんな中で最近一部で話題になっていたのがこの本。早速読んでみた。

著者は当時日航の現役スチュワーデスであり、内部にいた立場だからこそ知り得ることも多いが、実際この事故で多くの同僚が犠牲になっていてやむを得ないことではあるが、その分感情が先に立ってしまう情緒的な面も強く感じた。
その内容は、尻もち事故の修理ミスによる圧力隔壁の損傷とした事故調査報告書に異議を呈し、事故の原因は自衛隊の訓練標的機ないしはミサイル(!)が衝突したことで、それを隠蔽するために様々な工作が行われ、結果救出活動が遅れた、というこれまで様々な所でまことしやかに噂されていた説を、当時の目撃証言などで裏付けする、というもの。

しかし「自衛隊の標的機が衝突」まではまだどうにか「そんなこともあるかもしれない」と思えるが、墜落後に事実を隠蔽するために墜落地点の偽情報を流し、その間に真っ暗闇の険しい山中で証拠となる部品を密かに回収し、挙げ句の果てに火炎放射器で遺体を炭化するまで焼き払った、とするのはさすがに荒唐無稽に過ぎるだろう。

その結論に至るまでも様々な証言を集めてはいるものの確証と言えるまでのものはなく、更には著者ご本人の政治的バイアスも強く匂わせていることも相まって、推論そのものは非常にセンセーショナルではあるが結論ありきの印象が強く、残念ながら巷に蔓延る陰謀論の域を出るものとは思えず、「何だって!?それはけしからん!!!」と安易に飛びつくことはできない。

 


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とはいえこの事故にはこの本とは関係のない所で個人的に気になる部分がたくさんある。
例を挙げれば、

・大月上空での謎の旋回

横田基地が着陸受け入れを申し出ていて、実際すぐ近くまで来ていたにもかかわらず謎の反転

ボイスレコーダーの欠落部分と、音声解析の疑問

事故から随分経ってから世に出たボイスレコーダーの記録は何度聴いても胸が締め付けられるが、かなりの場所で肝心な部分が欠落している。

横田基地から受け入れの申し出があり、実際に向かっていたにもかかわらず寸前で反転して山に向かっているが、ちょうどそのあたりで実際に横田基地への着陸に関する交信記録の部分が丸ごと抜け落ちている。
アンコントローラブルの状態ながらもどうにかこうにかすぐ近くまで来たにも関わらず急反転して山に向かったというのは、そこに何らかの意図があった考えるのが自然だ。
一体そこにどんな判断があったのか。

自分が想像するに、横田基地緊急着陸するつもりでたどり着いたが、実際に機体のコントロールがほとんど効かない状態での着陸強行は、自機のみならず周辺の住宅地に突っ込むなどの二次災害の大惨事を巻き起こしかねず、やむなく断念して人のいない山へ向かったのではないか。
機長がその判断に至る心境を考えると本当に心が痛むが、そう考えると実際ボイスレコーダーに記録された
機長「山行くぞ」
副操縦士「はい」
の会話の意味の大きさに悲しみは深まるばかりである。
しかし肝心なその決断に至る交信記録が抜け落ちているので、これも推測することしかできない。

そのボイスレコーダーの公開されている部分でさえも、事故調査報告書で記されている会話を書き起こした文字と、実際の音声を聴き比べてみると、どうもそうは言っていないのではないかと思える部分がかなりあるのはずっと前から思っていた。

たとえば「オールエンジン」とされた部分は実際はそうではなく「オレンジ◯◯」ではないかというのが今では定説になりつつあるし、その他にも有名になった「はいじゃないが」や「これはダメかもわからんね」や「ドーンといこうや」、その他にも「このままでお願いします」なども、文字に誘導されるとどうしてもそう聴こえてしまうが、心を無にして音だけ聴くと自分にはどうもその文字の通りには聴こえないのだが、いかがだろうか。
これは当時の解析技術と現在のそれとでは格段に進化しているはずなので、是非とも最新の技術で再解析してもらいたいところである。

そして最も重要なボイスレコーダーの欠落部分。
これは事故当時はプライバシーに関わる部分があるのでカットされたと言われているが、もう事故から長い年月が経過しているし、あの時実際に何が起こっていたのかを改めて検証する時期に来ているのではないか。
実際に現在遺族から完全公開を求める訴訟が起きている。
無用な陰謀論が膨れ上がっていくのを防いで巷に蔓延る謎に決着をつけ、乗客を守るために最後の最後まで必死に奮闘したスタッフのためにも、是非ともボイスレコーダーの完全公開と最新技術での音声解析を願いたい。

間もなくあれから36年。
今年も追悼の夏が来る。

 


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