チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

2月に読んだ本

ペーソス艦隊がお送りするネットラジオ『週刊ペーカン秘宝館』Upしたよ!

今週はなんと!ゲストにペーソス艦隊の皆さんをお迎えしてクボフミトさんがお送りする・・・あれ~???

聴いてね♪

ペーカンWEBも色んなページを更新してるぞ!CheckCheck!!!

 

 さあそれでは読書日記いってみよ~!今月はめちゃめちゃレベル高いぞ!!!

 

日米開戦の真実 大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く 日米開戦の真実 大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く
佐藤 優 (2006/04/22)
小学館

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高校時代の友人に勧められて読んだ本だが、これは非常に面白かった!

自分にとって大川周明といえば、A級戦犯の被告として出廷した東京裁判の記録映像で、前に座っている東条英機の頭をペチリと叩いた映像があまりに強烈で、精神錯乱して東京裁判免訴になった人というイメージのみだった。そのせいか、いわゆるA級戦犯を中心とした戦前の戦争へ突き進んでいった指導者の中に、「狂気」という要因があったという印象をその後の日本国民に無意識に植え付けることに一役買っている気がする。しかし俺は彼が何故A級戦犯として起訴されていたのかなどはこの本を読むまで全く知らなかった。

 

なにしろ戦後一貫して東京裁判を基本としたいわゆる『GHQ史観』で教えられてきた戦前の歴史は、とにかく軍部と財閥が中心となって大陸へ植民地の拡大に突き進み、その過程で軍部が暴走して卑劣なる略奪と虐殺と陵辱を繰り広げた、という狂気的な悪魔のような歴史である。国民は圧制におびえ、言論は封じられ、平和を論じる良心的な人々はみな治安維持法で引っ張られていった暗い悪夢の時代。そんな暴虐の限りを尽くした日本人にとって原爆や空襲で報復される事は当然であり、ヒトラーと肩を並べる独裁者東条英機を中心とするA級戦犯は処刑されて当たり前。そんな極悪犯罪人を祀る靖国神社などは言語道断!けしからん!!!

・・・ちょっとオーバーかな? いや、少なくとも朝日新聞を読んで日教組の教育で育った俺はこのくらいの勢いで教わってきた。

もちろんこの大部分がことごとく間違いである事は今は充分承知しているが、子供の頃は新聞が明らかな嘘を書いてミスリードするなんて考えもしなかった。

 

この本は、日米戦争開戦直後にラジオで放送され、その後出版されベストセラーになった大川周明著『米英東亜侵略史』を復刻したものに、佐藤優氏が解説を加えたもの。開戦するにあたり、その理由を国民に説明したいわば日本国としての公式見解である。

もちろん戦争を正当化するためのプロパガンダ的要素の強いものであり、かなりの部分を割り引いて読まなければいけないが、単純にテキストとして読み解くと、戦後になって歪められてしまった当時の時代背景が見えてくる。

現代の常識という価値観で過去を批判する事は容易い。しかし当時は戦争という行為は他国との紛争の解決手段としてごく常識的なものであった事を忘れてはならないと思う。そして今の常識から見たら相当にえげつない帝国主義が大手を振るっていた当時の世界情勢。そしてその露骨なプレッシャーの中で、国の存亡を賭けて生き残らなければならなかった新興国日本の実情。そこには東亜新秩序、大東亜共栄圏の理想が不可欠だった。この辺りの事情が戦後封印されて、単純に「戦前の日本 = 悪」という図式で固定されてしまった。

 

その理由を理論的に説明する事の出来た大川周明が、もしアメリカにとって不都合なその持論を東京裁判で堂々と展開していたらどうなっていたか。

しかし結果的にそれを不可能とした精神錯乱の本当の意味とは・・・? それで一番得をしたのは誰か・・・?

考え出すときりがない。それくらい戦後のこの時期は様々な思惑が渦巻いて混沌としている。★★★★★

 

 

阿部定正伝 阿部定正伝
堀ノ内 雅一 (1998/02)
情報センター出版局

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さあみんなの大好きな阿部定さんですよ!さういふ俺も大好きだ。

俺がはじめて阿部定を知ったのは、小学生の時。

当時貪るように読んでいた大相撲の歴史を綴った雑誌があり、そこでは相撲とともに当時の世相にも触れていた。その中でちょうど双葉山の初優勝の年、昭和十一年の所に2.26事件と並んで「猟奇殺人事件・阿部定逮捕」というキャプションとともに彼女の写真が載っていた。そう、有名なこの表紙の写真。

とはいえ「猟奇殺人事件」と言われても小学生の自分には意味が分かるはずもなく、それに加えて逮捕されているのに笑顔を浮かべているその意味不明な不気味さ、おまけにその隣には2.26事件の銃を構えた兵士たちの恐ろしい写真、と、その古い白黒写真の残した印象は幼い自分に強烈なトラウマを植え付けるには充分だった。

 

それからしばらく経って、小学校で突如「チ○切り魔」という言葉が大流行した。今思えば当時大騒ぎとなった「口裂け女」と同じ類いの一過性の熱病のようなものだったのだが、幼い男子にとってはその響きは、ビックリハウスのヘンタイよいこ新聞の「小さな木こり」並に恐ろしいものだった。

その騒ぎの中、ある日クラスの女の子が衝撃の事実を口にした。

「チ○切り魔の名前は・・・アベサダって言うんだって!!!」

え!?

その瞬間、俺の脳裏には例の白黒写真が鮮烈に浮かび上がった。

ということは、あの写真の人がそうだったのかぁぁぁぁ!!!!!!

そこではじめて「猟奇殺人事件」の意味を理解した小学校五年生であった。

それにしても事件から40年以上経ってからも小学生に話題になるってすごいよな。しかしなぜ小学生の女の子が「アベサダ」の名前を知っていたのか謎だが、恐らく家族の中でずっと語り継がれていたのだろう。事件当時どれほどセンセーショナルなものだったのか想像に余りある。

 

阿部定関連の本は大昔にいくつか読んだが、この本はその後出たもので今回初めて読んだ。

子供の頃の写真の印象は「なんだ、おばさんじゃん」だったが、この歳になって改めて見て驚いた。なるほど、魅力的である。

それも真っ当なものではなく、破滅的な匂いのする、身も心も骨抜きになるような危険水域に連れて行ってくれるような危うい魅力。

当時の世の男たちが「一度お願いしたい」という想いを抱いたのも無理はない。

とはいえ、彼女に魅力を感じるのはあくまで自分が関わっていない安全圏から見ているから言える事で、いざ実際に関わったら振り回されて大変な事になるという、情緒不安定な典型的なトラブルメーカーであろうことは想像に難くない。

「チ○切り魔」というといかにも何人もの男の「そびえたつもの」を切り倒したかのような印象があるが、もちろんそうではない。

 

彼女を語る常套句としては、究極の愛の姿、愛の極地、などという言葉がよく用いられる。

とは言ってもあくまでそれは「性愛」という意味に限られたものと思うのだがその辺どうか。

性愛こそが愛の全て、と言ってしまえばそれまでだが。

 

この本は事件までの事はもちろん、あの写真の笑顔の意味や、その後出所してからの彼女の人生が写真とともに豊富に語られていて、とても興味深く面白かった。★★★★★

 

 

新宿の1世紀アーカイブス―写真で甦る新宿100年の軌跡 新宿の1世紀アーカイブス―写真で甦る新宿100年の軌跡
佐藤 嘉尚 (2006/03)
生活情報センター

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新宿。杉並に生まれ育った俺にとって自転車でも行けたその街は、渋谷よりも池袋よりもどこよりも馴染みのある街である。

今でもそう感じるのはきっと、中に入る店や人は変われども、30年前から街の「作り」自体はほとんど変わっていないからか。

変わった所と言えば南口周辺と都庁が出来たくらい。それ以外は地下街の構造からデパートの並びや建物、それらがほとんど変わっていないので全く迷ったりする事はない。この街が渋谷と違って浮ついた感じがしなくて妙に落ち着くのはそのせいだろう。

言い方を変えれば、30年前にもうすでにこの街は完成されていたということ。この先も大きな変化はないだろう。そしてこの本はそんな現在の新宿の街が出来上がる更に以前の姿を伝える貴重な写真が満載だ。

俺にとってこの手の写真集は問答無用で満点なのよ。来月以降も続きます。★★★★★

 

 

ドキュメント帝銀事件 ドキュメント帝銀事件
和多田 進 (2004/02)
新風舎

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読み始めてから、随分昔に一度読んだ事があると気付いたが、内容はほとんど忘れてしまっていたので再読。

戦後間もない昭和23年に起きた帝銀事件。容疑者とされた平沢貞通死刑囚は、この本を読むまでもなく大いに冤罪の可能性が高かったとされる。

それを裏付けるかのように死刑確定後も38年間に渡って死刑は執行されず、95歳で獄中死する。

それほどまでに謎の多いこの事件、平沢が「自白」せざるを得なかった訳、それ以上に自白を翻した後も肝心な部分を口を閉ざしてしまった理由を、丹念な取材によってひもといていく。そこには平沢は単独犯ではなく、大きな共犯グループの単なる一コマでしかなかった姿が浮かび上がってくる。

小説ではなくルポルタージュなので、薬品の名称など専門用語が多く、決して松本清張のように読みやすくはない。

それにしてもこの帝銀事件を始め、その後起きた有名な下山、松川、三鷹事件と、この時期の未解決の大きな事件は謎が多く、残された白黒写真のせいかどれも独特な陰鬱な雰囲気を持っている。そこがまた非常に興味をそそられる。★★★