われ巣鴨に出頭せず―近衛文麿と天皇 | 工藤 美代子 |
東京下町1930 | 桑原 甲子雄 |
JAZZ“名盤”入門! | 宝島社新書 |
21世紀に伝えたいJAZZ名盤250 | 杉田 宏樹 |
われ巣鴨に出頭せず―近衛文麿と天皇 工藤 美代子 (2006/07) 日本経済新聞社 この商品の詳細を見る |
近衛文麿といえば、日米開戦直前に二度に渡って総理の座につくものの、育ちの良さに起因する優柔不断さで、盧溝橋事件から日支事変に至る過程で軍部の暴走を押さえることが出来ず、ついには日米開戦を防ぐことが出来なかった人物、というのが一般的なイメージだった。
確かにそういった部分も否めないかもしれないが、戦後戦争犯罪人として出頭前夜に全てを胸にしまったまま服毒自殺したことで、謎が多く残されたままになっている。
仮にもしそのまま東京裁判に臨んでいたとしても、幾度にも渡る終戦工作は評価されずに、東條英機と並んで極悪A級戦犯のレッテルを貼られての集中攻撃は避けられなかっただろう。しかし死を選んだことにより反論の余地を自ら断ってしまったことで、その後のGHQによるいわゆる東京裁判史観を許してしまったことは残念でならない。東京裁判によって日本の戦前の歴史はずいぶんと歪められてしまった。
それにしてもこの人物、要所要所で常にソ連共産党コミンテルンの陰が見え隠れする。ゾルゲ事件はその最たるものだし、そもそも盧溝橋事件も中国共産党による某略説が現在では有力である。若い頃から将来の日本を導く人材と目されていた近衛に白羽の矢を立て、尾崎秀実をはじめ様々な勢力が近づいたであろうことは間違いないようだ。
全てはスターリンの掌の上で踊らされていたことを、近衛本人も戦争が終わる頃には気付き、終戦後の共産主義勢力の台頭に懸念を評したことが、虎の尾を踏んでしまったということであろうか。
ゾルゲ事件は氷山の一角に過ぎない。そして恐ろしいことにそれは現代の日本に更に奥深く食い込み続いている。スパイ天国日本。★★★★★
東京下町1930 桑原 甲子雄 (2006/11/21) 河出書房新社 この商品の詳細を見る |
桑原甲子雄による主に1930年代の東京下町の情景。どれもが70年前の写真とは思えない驚くほど鮮明な画質で、人物の表情や服装、そして建造物や看板など、全てが生き生きと今にも動き出しそうな臨場感で目の前にいる。白黒写真ではあるが、鮮やかな色彩すら伝わってくる写真だ。
戦前の日本というと、戦争へと雪崩を打って突入していく『暗黒の時代』であった、というイメージを刷り込まれて来た。確かにこの写真も「その十年後に東京を襲う悲劇をまだこの人たちは知らない」という先入観を持って見れば悲しくも感じるが、単純に先入観抜きで写真だけに向き合えば、どの人も生き生きとその時代を懸命に生きる美しさに溢れている。少なくとも『暗黒の時代』というのは後付けの勝手な理屈だ。★★★★★