チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

『カムカムエヴリバディ』

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NHK朝ドラ『カムカムエヴリバディ』が終わった。
物語は昭和の初めから女三代に渡る100年の物語。

まずヒロインを3人に分けるというのはとてもいいアイデアだった。
なにしろ朝ドラというのは一人のヒロインを半年間ほぼ毎日見続けなければならないので、よほどの魅力がなければ飽きてしまうことが多いが、ほどよいタイミングでヒロインが3代順番に入れ替わるのは新鮮な感覚でテンポも良く飽きることがなかった。

特に最初の安子編は、戦争という辛い時代を描く中にも暖かい家族と愛しい人との結婚と別れを愛しさと切なさ満載で丁寧に紡ぎ、これは朝ドラの歴史的傑作になるのではないかという大きな期待を抱かせてくれた。

その後のるい編とひなた編も中々面白く目を見張る部分は多かったが、正直言ってその安子編の余韻と貯金でどうにか最後まで乗り切ったかな、という印象。
面白い中にもるい編あたりから「あれ?」という部分が少しずつ増えてきて、ひなた編の終盤に至ってはかなり首をひねりたくなってしまうことが多くなった。
最後は思わせぶりと匂わせとサプライズ狙いばかりでかなり興醒めしてしまった。

アニー・ヒラカワの正体などは、あんなに思わせぶりな匂わせを延々と引っ張って視聴者を煙に巻くようなことはせず、最初に提示しておいて視聴者を優位な目線に立たせて、知らぬはひなたばかりで中々気づいてくれないひなたに「ひなた〜うしろ〜!」とヤキモキさせた方がよかったし、長い物語の中で最も重要なカミングアウトもあんなラジオの電波ジャックみたいな人騒がせな奇を衒うようなことはせずに、もっとしみじみとした場面でやってほしかった。
その後の感動の母娘再会シーンも、その前の無駄な追っかけっこシーンなど全く必要なく、ただただ派手な演出とサプライズばかりを狙っているようであまり感心しなかった。

最終回に至っては全編視聴者サービスで、それも昨今のやたらと「伏線回収ガー!」ばかりにこだわる視聴者に対し、「ほれ、お前らこれが観たかったんだろう?」とばかりに畳み掛けるようなこれまでの登場人物を強引にくっつけたりこじつけたりの連続で、あまりの力技の連続に呆気に取られてしまった。

個人的には「あの人はその後こうなりました」というのは「伏線回収」でも何でもなく、それを全部見せてしまうことが逆に観る者の余韻や想像力を削ぐことにもなってしまうので、最後にサービスで同窓会的にみんな元気でやってますよ程度でよく、ちょっと今回はやりすぎだと思った。

しかし終盤こそ色々不満も出てしまったが、それでもここ数年不作続きの朝ドラの中では抜群に面白かったことは間違いなく、久しぶりに朝ドラで楽しませてくれた。
前作の『おかえりモネ』ではいい加減朝ドラから離れてしまいたいと思ったが、またこの『カムカムエヴリバディ』でグッと引き戻してくれた。

次作の『ちむどんどん』も主演の黒島結菜さんは好きなので、楽しみに観たいと思う。