チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

『インセプション』(2010)

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「他人の夢に入り込んで、潜在意識を操作して情報を抜き取ったり植えつけたりする」お話。
ディカプリオと渡辺謙が出ているので、公開当時は日本でも話題になったのではないだろうか。

イデアは面白いと思ったが、何しろ夢の世界が、夢の中のまた夢という具合に多層構造になっているのでとても分かりにくいことこの上ない。
今展開されている世界がどの層の夢なのかもよくわからないし、主人公たちが何度もピンチに陥るが、観ている側は「どうせこれ夢の中なんでしょ」という頭があるので、全く緊迫感を感じない。

街が突然めくれ上がったり、無重力状態になったりと、映像効果はとにかく見応えがあるし、カーチェイスや銃撃戦もとにかく派手だが、どうも現実感に乏しくて世界に入り込めず、途中で飽きてしまって何度も寝てしまい、観終わるのに一週間くらいかかった。

何より夢の世界に住む主人公の元妻が事あるごとに主人公を引きずり込もうとして邪魔だてし、その度に主人公がフラフラして仲間たちを窮地に陥れるのがイライラして仕方ない。

観終わっても特に何も残らなかった。

『スターリンの葬送狂騒曲』

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 そのタイトル通り、スターリンの突然の死から最終的にフルシチョフが権力を掌中に収めるまでの大混乱と権力闘争をブラックコメディタッチで描いた作品。

コメディタッチとは言え、実際には映画中ひっきりなしに人々が処刑され、ギャグも日本人には馴染めないブラックなものばかりなので全く笑えない。
ラストシーンはひたすら胸糞悪い。
まあこれをシリアスに描いたらとんでもなく陰惨で観るに耐えないものになっていたであろう。

個人的にはスターリンの為した所業は常識的な範囲で知っている程度で、その後の権力闘争や人物などはフルシチョフとブレジネフくらいしか知らなかったので、この辺のソ連の歴史に興味が出てきたのでちょっと他の文献などにもあたってみようと思った。

 ソ連は体制が完全に変わったのでこういう映画も現代では作られるが、中国での毛沢東の権力闘争を描いた映画が作られるのはいつの日か。

 


『スターリンの葬送狂騒曲』予告編

『野火』

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『野火』と言えば、中学生くらいの時に初めて読んで、人肉食というタブーを描いたそのあまりの衝撃に震撼し完膚なきまでに叩きのめされ、それまで児童文学くらいしか知らなかった自分に「大人の本格小説というのは物凄いもんだ」というのを教えてくれた大岡昇平の小説だ。

そんな自分にとって重大な意味を持つこの作品の映画化ということで非常に興味深く鑑賞した。

かなり際どいシーンが多く、思わず目を背けたくなることも多かったが、原作で表現されている極限状態の戦場での恐怖と狂気が遺憾なく表現されていた。

二度と観たいとは思わないが…。

原作の方は数十年ぶりにもう一度読んでみたくなった。

 


『鉄男』シリーズなどの塚本晋也監督作!映画『野火』予告編

『ハイドリヒを撃て!』

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第二次大戦中、ドイツ支配下チェコレジスタンスの実行部隊が、ナチスNo.3と言われて暴虐の限りを尽くして恐れられていたハイドリヒを暗殺する計画の一部始終を描いた映画。

映画後半、作戦実行シーンからその後のナチスによる報復のレジスタンス掃討作戦までの緊迫感は凄まじく、息つく間もなく見入ってしまった。

しかしこの映画の本筋は暗殺計画そのものよりも、たった一人の暗殺の報復として5000人ものチェコ人が処刑されたという、その終わりのない連鎖の不条理を描きたかったのではないだろうか。

極悪人をやっつける英雄といったようなわかりやすいヒロイズムのようなものは欠片もなく、観終わったあとは無情さのみが残る。

不勉強につきハイドリヒのことはこの映画で初めて知ったので、今後文献などにあたってみたいと思う。


キリアン・マーフィ×ジェイミー・ドーナン!映画『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦』予告編

2度目のキャンプ

2度目のキャンプに行ってきた。
場所は前回同様西湖。ここは安くてとてもよい。
2度目ということで色々慣れてきたので、今回は食材も用意してみた。
ホタテ焼き美味かったლ(´ڡ`ლ)

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今回は前回のように強風や雨に悩まされることがない穏やかな夜だったので、ぐっすり眠ることが出来た。
朝起きてテントの入口を開けるとそこは湖、というシチュエーションは毎回ゾクゾクする。

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The Beach Boys『Keep An Eye On Summer - The Beach Boys Sessions 1964』

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ビーチボーイズ50周年企画未発表テイク集、1964年のも出ていたことに気がついた。

1964年のビーチボーイズといえば、出す曲出す曲大ヒット連発の名曲だらけのまさに黄金期ど真ん中。
個人的にはビーチボーイズシュープリームス、そしてジャクソン5の音には、60年代アメリカンドリーム独特のキラキラ眩く煌めくような奇跡の魔法が掛かっていると思う。
このアルバムではブライアン・ウィルソンという当時わずか22歳の若き天才の手から日夜そんな魔法が生み出される瞬間が余す所なく収録され、当時の現場の高揚感がぎっしり詰まっている。
50年後に聴いていてもそのままワクワクした興奮に包まれて本当に気分がいい。

この50周年企画未発表テイク集、1965年と66年が出ていないようなのだが何故だろう?
あの名盤『Pet Sounds』の1966年はこれまでにもうネタが出尽くしているからいいとして、65年の『Today!』と『Summer Days』のアウトテイクは是非聴いてみたいところ。

The Beach Boys『1968 - I Can Hear Music The 20/20 Sessions』

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ビーチボーイズ50周年企画、続いては『1968 - I Can Hear Music The 20/20 Sessions』
こちらは1968年に録音された『20/20』の未発表セッション集。

ビーチボーイズの暗黒期はまだまだ続いており、マハリシ・ヨギとのツアーは大失敗に終わり、ブライアンの精神不調はさらに悪化、デニスに至っては翌年に凄惨なシャロン・テート殺害事件を起こすあのチャールズ・マンソンファミリーが自宅に棲み着き、ビーチボーイズの現場にも多大な影響を及ぼすなど、公私ともに荒みきった最悪の状態。

このアルバムにも当時の状況を反映してどことなく不穏な雰囲気が漂うが、唯一の収穫はブライアンの状態が更に悪化したことで否応無しに他のメンバーが頑張らざるを得なくなったこと。
それぞれが曲を持ち寄りそれまでブライアンに頼りきりだったアレンジ&プロデュースもするようになり、よりバンドらしくなってきた。

しかしながら彼らの才能が真に開花するのは次作『Sunflower』以降で、ここではまだ準備段階といった感じ。とはいえそんな荒削りさの中でもデニス・ウィルソンの特異な才能はもう輝きだしている。
このセッション集でもデニスのデモテープが多数収録されていて、どれも未完成ながら溢れ出る才能を抑えきれない感じ。
そのデモテープの中ではシンセサイザーを導入(ビートルズより早いではないか!)していたりして新しい音への興味も貪欲さを見せている。
とはいえチャールズ・マンソンの楽曲を採用したり、あろうことかスタジオに女を連れ込んでおっ始めた行為をわざわざ録音してその音を曲に入れてしまうというクレイジーな悪ノリもヒドいが…(;´Д`)

ビーチボーイズ50周年企画で現在配信されているのはここまで。
今年と来年にはいよいよ70年代の傑作『Sunflower』と『Surf's Up』の未発表セッション集が聴けるのだろうか?
それが今から楽しみで仕方ない。

The Beach Boys『1968 - Wake The Word The Friends Sessions』

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ビーチボーイズ50周年企画、続いては『1968 - Wake The Word The Friends Sessions』

こちらは1968年に録音された主に『Friends』にまつわるセッション集。
前年に引き続き1968年のビーチボーイズも相変わらず暗黒期が続いていたが、そんな中で生まれた奇跡のような名盤が『Friends』。

この時期マイク・ラヴビートルズとともにマハリシ・ヨギのセミナーに参加してにどっぷりハマっており、ビートルズはその後決別してホワイトアルバムを作ったが、ビーチボーイズはレコーディング真っ最中ということもあり、その影響はかなり色濃くいい方向に作用したようで、アルバムは終始穏やかで陽だまりに包まれるような心地いい空気が流れている。
『Transcendental Meditation』というそのものズバリのタイトルの曲まである。

アメリカでビーチボーイズの人気が最も低迷している時期であり、ビーチボーイズ史上最も売れなかったアルバムのようだが、そんな暗黒期でもこんな優れたアルバムを作ってしまう底力はやはり凄い。

そんなアルバムのセッション集なので、個人的にはとても興味深く聴くことが出来たが、やはり興味のない人が聴いてもさっぱり面白くはないだろう(^_^;)

 

 

The Beach Boys『1967 - LIVE Sunshine』

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ビーチボーイズ50周年企画、続いては『1967 - LIVE Sunshine』
こちらは1967年7月に行われたハワイでのライブと、11月に行われたバッファロー・スプリングフィールドとのツアーのライブレコーディング。

しかしながらハワイ公演はご丁寧に2日分のリハーサル音源まで含まれ、全部でのべ109曲、時間にして実に5時間49分にも及んでいるので、全曲隅々聴いたかどうか定かではないし、改めて聴き直そうとも思わない。
ほとんどセットリストも代わり映えないし、それでもこれがもし演奏が良ければそれぞれ聴き比べもできるのだが、何にせよひどい演奏なので全部聴くのはどれほどのマニアでも苦行としか言いようがない。

特にハワイ公演は、メンバーの演奏も下手だし、歌にも全く覇気がないし、妙に間延びしたアレンジだし、挙句の果てには歌いながら笑いだしたり歌うのをやめてしまったりと全くやる気がなく、お客さんも困惑している様子が見て取れる。
よりによってこれを録音してライブ盤としてリリースしようとしていたというのだからどうかしている。
レコード会社に突っぱねられたのも当然。

後半のツアーではさすがにこれではマズイと思ったのか、ベースとキーボードにサポートメンバーを加えたことで、演奏には締まりが出たが、ライブ自体はやはりまだふざけながらやっていて、聴いていて「真面目にやれ!」と言いたくなってしまう。

この年、ビートルズがSGTペパーズを出し、ジミヘンやクリームなど斬新なロックミュージックがが聴衆を熱狂させている中、ビーチボーイズは駄作アルバムを連発し、おまけにこんなふざけたライブをやっていたのでは、人気が一気に急落してしまったのはむべなるかな。
この後、彼らが一念発起してライブバンドとして再評価されるようになるのはもう少し先の話。
暗黒期はまだまだ続く。

 

コロナと経済と私

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この4連休で各地は大変な人出で、ここ富士五湖周辺も多くの人で賑わっていたようだ。
コロナがまだまだ猛威を振るう中ではあるが、経済を動かすためには結構なことであり、やむを得ないことでもあると思う。

しかしいざ自分はというと、まだまだ人混みには出たくないし、特にライブ、カラオケ、外食、公共交通機関などには行こうとは思わない。
それどころか、このコロナ禍の半年の間にこれらのものが果たして本当に自分にとって必要なものだったのか?を考え直す期間になってしまった。
特にライブやカラオケなどは若い頃から自分の生活に直結するものだったもので、これらのない生活など考えたことすらなかったのが、いざ無くなってみると今の自分にはあってもなくてもいい、さほど重要なものではなくなっていることに気づいてしまった。
最近は好きなアーティストも増えて久しぶりにライブに通うようになっていたので、これは自分にとって大きな発見であり衝撃だった。

そこには人それぞれの自己判断があっていいが、自分のような者ばかりだと経済は全く動かなくなってしまうよね。
困った時代になってしまった。
なのでこの連休に人混みに殺到する人達を見ても、「こんな私に代わってコロナ感染の危険を顧みず身を挺して経済活動に貢献していただきありがとうございます。どうかこれからもよろしくお願いします」と頭が下がり、とても非難する気にはなれないのです。