ユーミンのアルバムを時代順に1枚ずつじっくり聴くことを始めて、少しずつ時代を追って追体験していくうちに、いつしか「次のアルバムはどんなだろう?」と、ワクワクしてきている自分に気づいた。
同時に当時の時代の空気なんかも併せて思い出すことで、その昔夢中で音楽を聴いていた頃のあの感覚が蘇ってきて、これは思わぬ効果でとても嬉しい。
そして、聴き込めば聴き込むほどユーミンが好きになり、今や完全にユーミンの魅力にハマり込んでしまっている自分がいる。
どうやらユーミンの曲は聴けば聴くほどスルメのように味わいが出てくるようで、以前酷評してしまったアルバムの曲を聴き返すと、「あれ?こんなにいい曲だったのか!」というケースもよくあり、最初の頃はファーストインプレッションのつもりで書いていたのがこれではいかんと思うようになり、今は最低5回は聴き込んでから書くようにしている。
それにしても後追いではあるものの、ユーミンの音楽に出会うことが出来て本当によかった。こんな機会を与えてくれたサブスクリプションの音楽配信サービスには感謝するしかない。本当に便利な時代になった。
リアルタイムでユーミン聴いてたら、もしかしたら自分ももっといい曲たくさん書けていたのかな〜…なんて思ったりもして(^o^;)
17. DA・DI・DA('85)松任谷由実
前作『NO SIDE』が、めくるめく名曲のオンパレードの超名盤だったことで、それに続く今作もドキドキしながら聴いた。
1曲目はこの時代らしくスクラッチの音から始まる『もう愛は始まらない』だが、イントロでいきなりハードなギターが出てきて、「これはもしや俺の苦手なロック寄りのユーミンか?」と一瞬思ったが、いやいやとんでもない!これも前作同様名曲揃いの名盤だった。
どの曲も楽曲のレベルが高いし、それぞれ趣向を凝らしたアレンジが施されており、とにかくお洒落で手抜きなし!
その丁寧な仕事ぶりは今聴いても古さを感じない。
名曲『シンデレラ・エクスプレス』はその美しさにうっとりトキメイてしまうし、『青春のリグレット』のクロマチックに上昇していくハーモニーは何度聴いても衝撃的だし、『たとえあなたが去っていっても』のコーラスは最初聴いた時は大袈裟だな〜と思ったが、何度目かで突然その力強さに感動してしまう。
どの曲も本当にクオリティが高い!
サウンド面で一聴してすぐに気がつく変化は、何と言ってもデジタルシンセサイザーYAMAHA DX7の導入だろう。
これまでのユーミンのサウンドの最大の特徴は、ほぼ全ての曲で聴かれる松任谷正隆氏奏でるフェンダーローズの音色だった。
それがこのアルバムではついに一部の曲で当時世界中で一世を風靡していたDX7のエレピの音色に置き換わった。
どちらかというとくぐもった温かい音色のフェンダーローズと比較して、DX7のエレピは硬質できらびやかで透明感があるので、一聴して明らかにそれまでとアルバム全体の雰囲気が変化したのがわかる。
早速その特徴をふんだんに活かした『シンデレラ・エクスプレス』という名曲が誕生した。
当時あまりに世界中で多用されまくったことで、当時の時代性を強烈に感じてしまう音色ではあるが、楽器一つでこれだけ音楽の雰囲気を一変させてしまうほどのインパクトある音色はやはりエポックメイキングな楽器だったと言える。
ちなみに自分ももちろん大好きで、初代DX7とDX7Ⅱの2台所有していた(^_^;)
DX7の他にも、ドラムにゲートリバーブが掛かったりなど、いわゆる80年代後半サウンドに着々と近づいているが、いわゆるドッシャンガッコンといったこれみよがしな感じではなく極めて抑制的な使われ方にとどまり、 安心して聴くことができる。
★10
【この1曲】
『メトロポリスの片隅で』
アタマから最後までいい曲ばかりのこのアルバムの中でも有名曲は『シンデレラ・エクスプレス』『青春のリグレット』などもあるが、極めつけはこの曲!
メロディ、アレンジ、サウンド全てが不思議なほどどこを切っても完璧で、ユーミンはここにポップミュージックの真髄を極めたのではないか。
特にサビをもう一度繰り返してもいいところをそうせずに「♪私は夢見るSINGLE GIRL〜」と展開する所が溢れ出る才能を抑えきれない感じがして震撼する。
しかもそれだけにはとどまらず更に畳み掛けるようにシンセでそのメロディを追いかける所に至ってはもうどうにでもして〜とメロメロになってしまう。
18. ALARM a la mode('86)松任谷由実
このアルバムはシングルになったような有名曲がないので一見地味に感じるが、何度も聴いてみたくなるような味わい深い佳曲ばかり。
『白い服、白い靴』や『20 minutes』のような、どこかコミカルなストーリー仕立ての曲が多く、普段は意識して何度も聴かないと歌詞を聴き取れない自分にも一回ですんなり歌詞の世界が入って来るのは見事。
ユーミンの歌も『ジェラシーと云う名の悪夢』で顕著なように、珍しく(笑)上手く歌おうとしているようでよく声も出ているし、その分歌詞も伝わってくる。
『白い服、白い靴』はかつての『曇り空』を彷彿とさせる歌詞だが、あの頃のような重苦しさはなく、やはりどこかコミカルでフワフワした描写が心地いい。
それにしても女心はわからんね・笑
『Autumn Park』はUTYのスポットニュースで使用されており、山梨県民なら誰もが聴いたことのあるイントロ。
ユーミンの曲だったのか〜!
とてもいい曲。
『3-Dのクリスマスカード』のサビはアレンジ込みで何故か無性にグッとくる。
一体何なんだろう?
サウンド面に関しては、前作で目立ったDX7の音が影を潜め、再びフェンダーローズに戻ったようだ。マンタさんのお気に召さなかったのかな?
ドラムの音が少しずつ派手になりつつあるものの、全体的にはまだまだ落ち着いたサウンドでとても聴きやすい。
聴けば聴くほどスルメのように味が出てくる、地味だけど大好きなアルバム。
★10
【この1曲】
『20 minutes』
特にこの曲は歌詞が非常に面白く、アレンジもそれに合わせてどこかすっとぼけた味わいで、何度も聴きたくなる摩訶不思議さ。
その秘密を探りたくなる。
「いやだ久しぶりね」の歌い方が最高!
途中でおもむろに脈絡なくオーケストラヒットが出てくるのは、ま〜この時代らしい。
19. ダイアモンドダストが消えぬまに('87)松任谷由実
前作では落ち着きを見せていたサウンドだったが、ここに来て一気に80年代後半のいわゆるド派手なバブリーサウンドに突入!
そのデジタルな肌触りはこれまでとは明らかに一線を画す。
このタイミングだったか〜。
調べてみると今作からシンクラヴィアを導入したとのこと。
シンクラヴィアか〜…、当時雑誌などで「1億円近くする世界一高価な楽器」として存在は知っていたが、「日本で所有しているのは加山雄三だけ」などというまことしやかな噂が囁かれるほどで、当然のごとくそんな庶民にはとても手の届かないような楽器は楽器屋さんにも置いているはずはなく、一体どんな音がするのかはいくら想像を膨らませてもサッパリわからなかった。
どうやらサンプラーでもありFMシンセでもありワークステーションでもあり、当時出来ないことはないとまで言われるほど万能で画期的な楽器だったようだ。
だから何でも出来る分、DX7のようなその楽器特有のコレといった個性的な音があるわけでもなく、音色としてはとらえどころのない正体不明な楽器だったことは仕方のないところか。
まあとにかくこのアルバムのデジタルな質感はそのシンクラヴィアによるもののようで、ドラムの音はドッカンバッシャンとにかく派手でうるさくなり、打ち込み主体のデジタルで硬質なサウンドになった。
しかしそれにより相対的に歌のレベルが小さくなってしまった。
今回の歌詞の世界は以前にも増して更に研ぎ澄まされた感があり非常に面白いのに、歌が小さくなったことでせっかくの歌詞が聴き取りづらくなってしまったのは残念。
とはいえ楽曲のレベルは相変わらず非常に高く、今回も良曲揃い。
全体的に派手な音作りではあるが、ラストの『霧雨で見えない』は今までのようなアナログで暖かいサウンドで安心させてくれる。
★9
【この1曲】
『ダイアモンドダストが消えぬまに』
キャッチーなメロの『思い出に間にあいたくて』と迷ったが、ここはやはり表題曲で。
聴いていて気分がワクワク高揚してくるポップでお洒落で本当に素敵な曲。
それなのにこの曲がシングルじゃなかったというのが驚き。
といっても歌詞は意外と寂しかったりするのね。
イントロでは「あ〜ジョー・ジャクソンが好きだったのね〜」というのが伝わり過ぎるくらい伝わってきて微笑ましい(^_^;)
20. Delight Slight Light KISS('88)松任谷由実
さて、前作では一気にバブリーサウンド全開に変貌したわけだが、今作のサウンドは前作から更にドッカンキラキラと派手さを増し、ドラムがとにかく硬くて耳に痛くてうるさい。
前作はそれでも相変わらず高クオリティの楽曲が揃っていたのだが、今作は…、あれれ?ユーミンどうしちゃった???と言いたくなってしまうくらい楽曲が低調な感じ。
まるでこれまで曲にかかっていた魔法が一気に解けてしまったかのよう。
ここまでずっと連続して何作も生涯愛聴したいほどの愛聴盤を連発してくれていたのが、ここに来てさすがのユーミンにも疲れが見えてきたか。
売上は凄かったようだが、この先どうなってしまうのか一抹の不安が募る。
★5
【この1曲】
『リフレインが叫んでる』
そんな中でも唯一この曲だけは別格。
冒頭の「♪どうしてどうして僕たちは出会ってしまったのだろう」というフレーズは、これをキャッチーと言わずして何をキャッチーと言うのかと思うほど超強力で、ユーミンの楽曲の中でも一二を争うくらいのキャッチーなメロディと歌詞の融合ではないだろうか。