前作までのいわゆる「ヨーロッパ3部作」で世界を確立した大貫さん。
これ以降は格別ヨーロッパにとらわれることなく、更なる幅を広げた独自のポップ路線を広げていく。
7. Signifie('83)
前作『Cliche』でついに本場フランスレコーディングを果たしついにモノホンになったことで、もうやることがなくなってしまい、ヨーロッパ路線はこれにて完了となる。
このアルバムでは新生大貫妙子の新たなる世界を模索する姿が見られて、バラエティに富んだ曲作りをしている。
しかしながら前作まであれ程の凄まじい切れ味を見せていた坂本龍一アレンジはネタ切れ気味なのかキレはやや影を潜め、個人的にはアレンジを分け合う清水信之アレンジには当時からもう一つ馴染めないものを感じていた。
サウンド的にもちょうどこの頃から皆こぞって使いだしたリンドラム(かな?)の音が、どうしても今となっては強烈な時代感を覚えてしまう。
ヨーロッパ路線から脱したものの、新たな世界を確立する試行錯誤の途上中、といった印象のアルバム。
★8
【この1曲】
『Recipe』
リンドラムによる打ち込みリズムが多くなってきた中で、この曲は林立夫&後藤次利のブリブリベースによる生のリズム隊で安心する。
間奏の坂本龍一のピアノソロも心なしか活き活きとしていてカッコイイ。
途中ユーミンの『12月の雨』のリフが出てくるのも、ドラムが林立夫だけにニヤリとさせられる。
これって元ネタあったんだっけ?
8. カイエ('84)
前作で新たな世界を模索していたが、今作では再びフランスレコーディングでヨーロッパ路線に舞い戻ってしまう。
おまけに既存曲カヴァーのインストも多く、二番煎じ感は否めない。
とはいえフランスレコーディング曲のクオリティは相変わらず素晴らしい。
しかしここでも清水信之アレンジ曲が今ひとつ世界に馴染んでない気がする。
★7
【この1曲】
『カイエ (Ⅰ)』
かつての盟友山下達郎ばりのアカペラ多重レコーディングで、アルバムオープニングのインパクトは抜群。
とはいえ達郎とは全く違う彼女独自の世界を確立している。
9. Copine('85)
アレンジは従来通り坂本龍一と清水信之だが、ここではこれまでとは音がガラリと変わり、オマー・ハキム、ウィル・リー、ブレッカーブラザースなどを起用して、生楽器を主体にしたどちらかというとロック寄りのサウンド。
当時彼女の興味が向いていたアフリカの影響か、どこか野性味溢れる雰囲気もある。
そんな中でも『春の嵐』の坂本龍一のオーケストラアレンジは安定の美しさで素晴らしいの一言。
『野辺』の歌曲的アプローチも素敵。
ただ、当時の自分はこのアルバムを聴いて、「大貫妙子は一体どこへ行こうとしているのだろう?」と一抹の不安を感じたのが偽らざる心境である。
★7
【この1曲】
『Les aventurea de TINTIN(タンタンの冒険)』
坂本龍一アレンジのこの曲を初めて聴いた時の衝撃は忘れられない。
ゲートリバーヴの効いたデジタルビートに、ブリブリのチョッパーベース、そしてド派手なオーケストラヒットと、それまで聴いたこともないような斬新なサウンドにぶっ飛んだ。
こうして要素を並べてみると今となっては典型的なこの時代を象徴するような時代掛かったサウンドなのかもしれないが、自分の中ではいまだにこの時の衝撃が残っており、今でも充分面白く聴けるのだがいかがだろうか。
とはいえ、このサウンドをわざわざ大貫妙子でやる必要があったのか? というの甚だ疑問ではある。