チェリーの音楽幕府

音楽の話題が多いと見せかけてそうでもない

3月に読んだ本

神の守り人<来訪編>

神の守り人<帰還編>

上橋 菜穂子
蒼路の旅人上橋 菜穂子
1960年代の東京 路面電車が走る水の都の記憶池田 信
東京1950年代―長野重一写真集長野 重一
川の地図辞典 江戸・東京/23区編菅原健二
トウキョウ今昔1966・2006田中 長徳

神の守り人<来訪編> (偕成社ワンダーランド)神の守り人<来訪編> (偕成社ワンダーランド)
(2003/01/22)
上橋 菜穂子

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神の守り人<帰還編> (偕成社ワンダーランド)神の守り人<帰還編> (偕成社ワンダーランド)
(2003/01/22)
上橋 菜穂子

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さあ読み進めて来た上橋菜穂子『守り人』シリーズ。

いよいよ物語のスケールは大きくなり、上下二巻に渡る長編の登場だ。

そしてこれまで読んできた中でこの作品が一番面白かった。

物語は、神に宿られた一人の少女が登場する。

しかしその神とは、その場にいるものの全ての命を奪う事すら自在な「殺戮の神」だった。

この神に宿られた少女を巡って、伝説の中で形作られてきたそれぞれの氏族の役割、その役割を巡っての争いと策略。

その狭間で少女は翻弄され、自らに宿った神の力を自覚し、崇め、そして葛藤する。

そんな事情を何も知らないまま主人公バルサはこの少女の命を救う。

しかしそれは大いなる歴史の流れと、古き伝説を守ろうとするもの,壊そうとする物、氏族間の争いの渦に巻き込まれることになる。

例によってこんな感じでその世界観は更にそのスケールを大きくしています。

同じ「神」に対する伝説も、その神によって支配した側と支配された側で、『力によって平和をもたらした神』『殺戮の限りを尽くした神』と認識が分かれたまま後世に伝えられていく。

これは現代の世にもしっかりと当てはまるよね。

そして何も知らない一人のか弱い少女に大いなる権力が与えられた時・・・。

考えるだに恐ろしい。

色々と考えさせられる事の多い物語である。

文句なしの

★★★★★

蒼路の旅人 (偕成社ワンダーランド (31))蒼路の旅人 (偕成社ワンダーランド (31))
(2005/04/23)
上橋 菜穂子

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女用心棒バルサが主人公の『守り人シリーズ』。

これが新ヨゴ皇国皇太子のチャグムが主人公になると『旅人シリーズ』となる。

双方はほぼ同時進行していて、それぞれバルサとチャグムの活躍が綴られる。

さて風雲急を告げて来たこの世界、その中で皇太子チャグムも大きなうねりの中で翻弄されてしまう。

しかしそこは幼い頃にバルサに鍛え抜かれたチャグム、ただ流されるだけでは終わらない。

自分の頭で決断し、自らの信じた道を突き進む。

その行く末がたとえ絶望的なものであっても、たとえ自らを犠牲にしてでも信念を貫くチャグムの姿は美しくも頼もしい。

そして物語はいよいよクライマックスへ。

★★★★★

1960年代の東京 路面電車が走る水の都の記憶1960年代の東京 路面電車が走る水の都の記憶
(2008/03/14)
池田 信

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さあ、ほぼ確実に満点を付けてしまう『この手の』本ですよ。

60年代のオリンピック前後の東京の景色は、新時代への夢と希望に溢れている一方で、それまでの街並の容赦のない破壊という物悲しさを伴っていて、何とも言えない雰囲気を漂わせている。

今回この本を読んで改めて思ったものは、現在の東京の景色と大きく異なる三点。

それは、まず何といっても都電、もう一つは空の広さ、そして水の豊富さである。

都電は車社会の到来に伴う交通事情、空の広さは人が増えると街は上へ伸びるという必然性(?)からまあ仕方ないところもあるが、問題は水が減ってしまった事だ。

こういった写真や当時の地図を見ると、東京は水の都だったことがよくわかる。

しかしこの時期を境に多くの河川が暗渠化されるか、上を高速道路で蓋をされてしまった。

当時の写真と見比べると、景観的にも大問題なのがこの高速道路だということに否応無しに気付かされる。

東京の空が狭くなった最大の原因がこの高速道路でもある。

小泉さんだったか石原さんだったかが、日本橋を塞ぐ首都高を地下化するプランをぶち上げ、荒唐無稽と批判される向きもあるようだが、これは大いに支持したい。

いくら無茶な計画だろうが、こういう事にこそ税金を使って欲しいと強く思う。

今の日本橋はあまりにも悲し過ぎる。

★★★★★

東京1950年代―長野重一写真集東京1950年代―長野重一写真集
(2007/11)
長野 重一

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こちらは更に10年遡り1950年代の東京。

64年の東京オリンピックを境に激変してしまった東京の街だが、この本にはそれ以前の消えてしまった東京が生きている。

それ以降のこざっぱりとした風景からは消えてしまった、人々のむせ返るような体臭を写真から感じる。

そこにはまだまだ『戦後』が色濃く残っている。

しかし人々の表情は生き生きと生命力に溢れている。

まだ靖国通りの道ばたが舗装されておらず、石ころがゴロゴロ転がっている時代である。

そして何より驚いたのが、写真に写り込む子供の数の多さ!

特に1949年の写真など、街を行く女性のほとんどが幼い子供をおぶっている。

街中に子供が溢れ返っている感じ。

これぞ戦後ベビーブーム、団塊の世代の破壊力なのか~!!!

改めて写真を見るだけでもそれを実感した。

繰り返し見返したい本になった。

★★★★★

[新刊] 川の地図辞典 江戸・東京/23区編 [フィールド・スタディ文庫1] (フィールド・スタディ文庫)[新刊] 川の地図辞典 江戸・東京/23区編 [フィールド・スタディ文庫1] (フィールド・スタディ文庫)
(2007/12/25)
菅原健二

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以前タモリ倶楽部石神井川流域を歩く特集をした時に紹介された本で、読んでみたいと思った。

これは労作だ。

現在の地図と、明治初頭の地図が見比べられるようになっていて、東京の都市河川の変遷がとてもよく分かる。

そして東京を流れるありとあらゆる川、堀、運河に至るまで、一つ一つの歴史と変遷が解説される。

現在の地図では、暗渠化された部分は点線、その他あらゆる水面、川や運河はもちろん、沼や豊島園のプールまで!が黒く塗りつぶされてとてもわかりやすい。

目地の地図と比較してみると、この百年の間にも川は大きく流れを変えている事がよく分かる。

そのほとんどは人為的な力によるもので、おもに治水の為に都市計画の一環で行われたものである。

中でも現在の岩渕水門以下の荒川下流は全く新たに放水路として引かれたもので、その規模の大きさはハンパではない。

明治の地図では今の荒川はまだ影も形もなく、道路や畑、民家がある。

そこに人工的な力で強引に大河を造り出したわけで、現在でいうと「ダムに沈む村」のようなドラマがあちこちで繰り広げられた事だろう。

昔の地図にある川の流れを、現在の地図で辿る作業をするだけで、時間が経つのを忘れてしまう。

実際にその後を自分の足でたどるのはもっと楽しい事だろう。

この本片手にいつかやってみたいな~。

★★★★★

トウキョウ今昔1966・2006トウキョウ今昔1966・2006
(2006/09)
田中 長徳

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こちらも似たような60年代後半の東京の風景なのだが、この写真家の文章がどうも好きになれなかった。

★★★